読書メモ

・「ウェブ仮想社会「セカンドライフ」 〜ネットビジネスの新大陸
(浅枝 大志:著、アスキー新書 \720) : 2007.11.24

内容と感想:
 
経済紙にも取り上げられるようになった「セカンドライフ」(団塊世代の”第二の人生”とは違う)の解説書。
 「セカンドライフ」はインターネット上に構築された、3DのComputer Graphicを使用した「Virtual Reality」(歴史を感じる表現だ)空間といってよいだろう。 ただ、直訳の「仮想現実」とは厳密には異なる。著者が「擬似の現実」だといっているように、その空間で操作されるユーザの分身(アバターという)は ユーザそのものだし、その空間内で出会った人との会話でも(互いの顔は見えなくても)「現実」にリアルタイムに話をしていることになる。 現実には互いは別々の場所でアバターを操作をしていても、セカンドライフ上では同じ場所にいるように見えるだけだ。 CGの人間があたかも会話をしているように見せているだけで、チャットと大差はない。 昔、「ネットサーフィン」といっていたようなことが、3Dキャラクターが自分の代わりに目の前で動き回って経験できるから、よりリアルに見えるわけだ。 (私はまだ実際には触っていない。昔だったらすぐに飛びついたかも知れないが、仕掛けがだいたい想像できてしまうからだ。)
 セカンドライフをネタにビジネスを始めた著者だけに随分、セールストークが多いのは仕方がないとしても、 「現実と変わりのない世界」、「バーチャルの本質を具現化したサービス」といった表現は大袈裟だろう。 「新しい経済圏」だというが、ネット上で「リンデン・ドル」というポイント(現実の通貨と交換できる)のやり取りしているに過ぎない。 3Dだから「より現実に近い」というのは錯覚である(表現方法が変わったに過ぎない)。 現状の2D表現のインターネットでもリアルマネーのトレードは現実的に行なわれているから、これもれっきとした「現実」である。
 著者の意見には疑問を感じる物言いが多く、非常に気になった。例えば、
「まえがき」ではWeb2.0時代になり、これまで取りこぼしてきたユーザ層の隙間、コンテンツの隙間を埋めきった、とか、 インターネットの「この先には何もなさそう」と限界を察知していると言っている。 また、第1章ではWeb2.0は単にインターネットの普及が十分に進んだだけ、とも。 第3章ではユーザの活動の自由度が(従来の)ページ型ウェブよりはるかに大きい、とかビジネスパーソンは(セカンドライフ上で)アバターによって仕事を進める、とも。 揚げ足取りはこれくらいにしておく。
 私の興味は「セカンドライフ」を展開しているアメリカのリンデン・ラボ社の目的は?何を目指しているのか?にあった。 世界統一?まずは通貨(経済)の統一から?とか考えたが、 ネットの世界の新たなプラットフォームの位置の確保を狙っているようだ。 縁の下の力持ち、というよりも天から(裏で?)全てを見ている神のような存在にならんとしているように思える。 (国家権力が無視できないほどの規模になれば、きっとそこへ国家は介入・干渉してくるだろう) 彼らの目的は「よりよい世界を作るため」と言われているそうだ。 全世界の人々がこのセカンドライフの理念に共感して、そこに理想の世界が出来上がるのであれば、 その暁には現実世界でも世界平和が訪れるのかも知れない。 しかしテロリストが暗躍する場にもならないとも言えないし、 まだこの先どうなるか分からない「セカンドライフ」であるが、リ社自身が暴走して「第三帝国」にならないことを願う。
 セカンドライフの住人は島を買って、家を建てたり、何をしてもいい。 高級車やブランド品を買って見せびらかしたりすることも出来る。 最初はそれが物珍くて注目も集めるとは思うが、果たしてそれで長続きするだろうか? まだ参入企業も試行錯誤している段階だという。 3Dだけにクリエーターのセンスや技術がより問われるようにもなる。
 ぱっと思いつくセカンドライフの有効な利用方法としては、まずネット上で仮想の新製品を公開して、試用してもらい、注目を集めて、 売れる見込み客を集めた上で、現実世界において実体のある商品に製品化して販売する、というものだ。 日本人向けならあえて行列を作らせるようなしかけにして注目を集める、とか・・。

○印象的な言葉
・「セカンドライフ」には究極の自由がある。ユーザーには何も目的も与えられず、守るべきルールもない。国境もない
・ゲームのようにクリアすべきミッションも、エンディングもない
・mixi疲れ:mixiの日記へのコメントに対して返事を書かなければならないという焦りや強迫観念
・特化型SNS:むりやり感があるサービス。自らユーザの母体数を減らしている
・セカンドライフ内での経済活動に対する課税についての議論がアメリカ議会では始まっている。国家が無視できない規模になりつつある
・セカンドライフの特質を会得し、サービスを普及させられればスタンダードになる可能性も
・ユーザを誘導し、囲い込むしかけ
・グローバルな感覚の持ち主、ボーダーレスな考え方。世界を相手のビジネス
・リンデン・ラボ社は警察や裁判機能を提供していない。その役割を担うユーザが出てくるかもしれない
・日本人以外のユーザはアバターに本名を使う人が多い
・ジャパニメーションへの評価:アメリカ人の感性がグローバル化した。アメリカ人から日本文化へ歩み寄って来た
・よりリアルに感じるためには操作性が重要

-目次-
[第1章] セカンドライフとは何か
[第2章] ネット上にできた新しい経済圏
[第3章] 企業が参入するとは、どういうことか
[第4章] セカンドライフ 10年後の世界