読書メモ

・「日本史の一級史料
(山本 博文:著、光文社新書  \700) : 2007.09.08

内容と感想:
 
著者は東大史料編纂所の教授。史料編纂所とは日本史の研究所とも言う場所。そこで日本の史料を整理したり、解読したりされて来られた。
 歴史家は史料の中でも文書(もんじょ)と記録(厳密には日記)に大きな価値を置く。 戦記や物語の類は後の人間が書いたものだから史料としては信頼に足りないのだ。 日本は世界的にも史料がたくさん残っている国だそうで、王朝交代や他民族から征服されたことがないことや、 大きな戦乱がなかったことも幸運だった。
 本書は史料とは何か、どんなものがあるか、その読み方(詳細な技術的なことではない)や捉え方、について読みやすく書かれている。 「史料を読む」ということは、くずし字が読めることだけでなく、その内容、時代背景や書き手の心情などが読み取れること。 また、その内容が信頼できるものか見極める確かな史眼が求められる。 TVの「xx鑑定団」ではないが、その史料が価値のあるものかどうか、真贋を見極める眼、目利きは、やはり経験と勘というところか? 自らたくさんの史料を読み、広く歴史を知っていなければ、どういう文脈で書かれた史料なのか、辻褄が合っているか判断できない。
 読み方という点では史料中に人名がフルネームで出てくることはないため、多くの史料を読んでいないと人名一つ調べるのも大変だそうだ。 史料をしっかり読めれば、そこから人物の心情を読み取り、肉声を聞くことができる。 時代背景を想像したり、時代の雰囲気を感じ取ることができる。
 第5章では最近は小説家も江戸時代を研究しており、荒唐無稽な時代劇も少なくなったと書かれている。 それまでは時代考証もいい加減な時代小説が多かったということだ。 物書きや大河ドラマの作り手は出来る限り、史料などを読み、より信頼でき、リアリティのあるものを書いて欲しいもの。 これからはますます読み手や見る側(ユーザ)の眼も肥えて、厳しくなるだろう。
 既に史料の管理はIT化が進んでおり、インターネットでデータベースから史料を探すこともできる。 早速試してみたが人物写真や人物図像なども検索できて面白い。歴史好きには楽しめるだろう。

○印象的な言葉
・教科書などに書かれている歴史は決して固定された正しい歴史ではない
・史料の一級も二級も、それを判断する者の主観に過ぎない
・網野善彦は二級史料ですらなかったもの卓越した史眼で一級史料として活用した
・画像史料解析センター:絵画や写真
・宮本武蔵関係の史料はごくわずか。「二天記」は創作の可能性が高い。「五輪書」も弟子の創作と考えられる
・17世紀後半は兵法を含めた芸道が伝統化する時代。
・面白さを狙っていないことに史料の信憑性を感じる
・好学な将軍吉宗。様々な書物から身につけた教養が享保の改革のバックボーン
・肥後熊本藩・細川家は情報収集に長けた大名。生き残りをかけ、必死に情報収集し、行動指針とした
・戦後、旧華族が経済的に困窮して貴重な古文書や古書籍を二束三文で放出した
・史料を伝えてきた大名家にとっては、それは家の由緒を伝え、地域の支配者としての正当性を保証する宝物。家の正統な相続者
・金一両は現在の感覚なら20万円以上

-目次-
第1章 有名時代劇のもと史料
第2章 歴史家は何をどう読む?
第3章 新しい史料を発掘する
第4章 一級史料の宝庫「島津家文書」を読む
第5章 「歴史学」への招待