読書メモ

・「「頭がいい」とは、文脈力である。
(齋藤孝:著、角川書店 \1,200) : 2006.11.18

内容と感想:
 
この人は頭がいいな、と思わせる人がいる。勉強が出来る、というのとは違う頭のよさだ。 本書ではそれと同じことを「文脈力」という言葉を使って言い表している。この概念を見つけた著者はすっきりして、気分がよかったと書いている。 「頭がいい」ことについて考えが整理されて、すっきり感を味わった著者は自身、そのとき「頭がいい」と感じたことだろう。
 第1章では「場の空気を読めること」を「頭がいい」と定義している。それには状況を把握する能力が必要とされ、それを著者は”文脈力”と言い換えている。 場の感知力とも言っている。 丸暗記(再生力)をDランク、要約しあらすじを言える(再構成能力)のをCランク、クリエイティブな力(アイデアを生む力)をBランク、新しい意味を生み出す力をAランク(天才クラス)、 とすれば本書ではDからBの能力の開拓を目指している。
 第2章では文脈力とは何か、について語る。それは「場を読む力」だと言う。 第3章では文脈力を鍛えるための様々なテクニックを述べている。読む、書く、聞く、メモ、翻訳など。 第4章は文脈力も大切だが、その土台は記憶力であり、記憶力も鍛える必要があると言っている。 第5章は文脈力をどう生かしていくかの応用編、第6章は「頭がいい」状態にするためのコツについて説明している。
 「あとがき」では学校とは「頭がいい」状態を子供たちに経験させ、技化させ、そこに幸福感を感じられるようにしてあげる場所、と言っている。 今、学校教育の危機が叫ばれている。学校は著者が言うような場所になっているだろうか?子供のいない私には今の状況はよく分からない。
 そして現在、国会では教育基本法改正が議論されている。しかしそれが現在の教育問題をどのように解決していくかという具体的なビジョンが伝わってこない。 与党は強行採決を挑み、野党は議論にならないと審議を欠席、法案はそのまま衆院通過という状況。「○しい国へ」の最終章で”教育の再生”を書いたA首相は早速、 国民の期待を裏切ったと言えよう。 これと同時にいじめ、子供の自殺も話題になっている。国会も「頭がいい」人ばかりではないようだ。

○印象的な言葉
・頭のよさは現実社会への対応や判断の仕方で自然と伝わる
・脳が活発に働いていると小気味よい快感を味わう。その感覚を明確に位置づけ、維持、拡大できると幸福な状態をより多く持てる
・誰にでも分かるように平易に説明できる、理解が素早い、本質を捉える能力、的を外さない、状況変化への対応、一を聞いて十を知る、シンプルにすることが出来る
・勉強を大多数の人が信用しなくなってしまった
・子供の成長段階とは自己中心的な世界から抜け出てくること
・戦争は文脈を絡ませようとする努力を放棄したところに起こる
・文脈もすっと平板でまっすぐな道だと寂しい。小さな変化を楽しむ
・クリエイティブな仕事のほとんどは記憶によって為されている。総合的な力が要求される。経験知の組み合わせ、ケーススタディ
・記憶の連続性が自己の一貫性を培っている
・いかに捨てるか(羽生善治)
・失敗の本質:わりと些細なところに問題があるケースが多い
・型は応用可能
・素材のある人間がその頭のよさをどう使うのがよいかについて社会がバックアップする必要がある

-目次-
第1章 頭がよければ、人は幸福になる
第2章 連なる意味をつかまえる力が、文脈力だ
第3章 文脈力を鍛える、身につける
第4章 文脈力の土台、記憶力
第5章 「頭がいい」とは、文脈力である
第6章 「頭がいい」を、技化する