読書メモ
・「勝負勘」
(岡部 幸雄:著、角川oneテーマ21 \686) : 2006.012.30
内容と感想:
2006年の競馬はディープインパクトの有馬記念制覇と引退で締め括られた。そのディープが無敗で三冠馬となった年の21年前(1984年)に、
同じく無敗の三冠馬となったシンボリルドルフという馬がいた。その主戦騎手が著者である。
尊敬の念を込めて名手・岡部と言われ、「馬、優先主義」という名文句でも知られる。
彼が突然現役を引退したのが2005年春(奇しくもディープが三冠馬となった年である)。
2003年に休養してからは活躍が激減し、重賞勝ちもなくなって引退止む無しかとも感じていたが、
それでも「その時」は突然来た。引退の理由はメディア等でも報道されて知っていたが、
その詳しい経緯も本書の中で触れられている。それにしても騎手というハードな職業を57歳まで続けていたことは驚異的である。
私には武豊と並んで最も馬券で信頼できる騎手であったが、今や武豊一人勝ち状態で、
競馬がつまらなく感じるようになってしまったのも岡部さんの引退も一因かも知れない。
本書はタイトルにもあるように、馬を駆る一種の勝負師とも言える騎手の「勝負勘」や、著者の騎手人生、競馬との関わり方についてなど、
競馬好きには非常に興味深いことがたくさん書かれている。
その勝負勘だが、著者は天才でなくても勝負勘は得られる、と書いている。努力と経験で。大多数が天才ではない。その凡才が勝負勘を得るには積み重ねしかないと。
自身を歩みの遅い”カメ”と評しているが、単に時間をかければよいというものではなく、そのプロセスが問題だとも言う。
「局面に応じてプランを修正していく」とか「瞬間的な判断力と即決力が求められる」など
本書では騎手に限らずプロフェッショナルとしての普遍的な考え方のヒントを与えてくれるはずだ。
騎手引退後は調教師というのがお決まりの業界だが、あえてその道を選ばなかった著者。彼らしいと思う。気が早いが武豊ならどうするだろう?
今はやりたいことをやりながら、従来の競馬サークルの外から出来ることを探しているそうである。
個人的な希望を言えば「生涯一騎手」として後進の育成に貢献していただいて、第二の岡部や武豊のような人材を育てて欲しいのだが。
○印象的な言葉
・長い長い時間をかけて自分の居場所を築いてきた
・実力差を覆すための大胆さ
・最高を知ることの大切さ
・大切な時期を見誤ってはいけない。チャンスを活かせる心構え
・負け癖をつけない
・マイナスの決断の重要性、やめる勇気
・今やれることをやっていくしかない。ただ、悔いだけは残したくない
・生涯一騎手、一人の馬乗り
・縦の世界を知っておくことのプラス面、生きていくための呼吸を学ぶ
・一歩一歩進んでいくことを大切にする気持ち
・反省は反省として気持ちを切り替えるのがプロ
-目次-
第1章 勝負勘と、情報のコントロール
第2章 運と転機
第3章 忍耐とステップアップ
第4章 育成術と、勇気ある決断
第5章 周囲の力と、発想の転換
第6章 勝つ秘訣と、集中力
終章 第二の人生
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