読書メモ

・「ロボットは人間になれるか
(長田 正:著、PHP新書  \700) : 2006.09.03

内容と感想:
 
日本人はロボット好きなようである。鉄腕アトムや鉄人28号など漫画やアニメの影響もあって、受け入れる素地が出来ているのかもしれない。 1996年に登場したホンダのP2(人間型二足歩行ロボット)やソニーのAIBO(犬型ロボット)は衝撃的だった。 日本の技術力を見直した出来事であった。その後も人型ロボットの開発には多くの企業や研究者が参入し、商品化されたりもしている。
 著者は長年、ロボット研究をされてきた方で、本書は学会や産業界などにおいて深くロボットに関わった研究者として、 ロボットの歴史や現状、日本の研究環境、将来性などについて、一般の読者にも興味が持てるような読み物となっている。 題の「ロボットは人間になれるか」という問いに対しては明確な解答は書かれてはいないが、人間そのものにはなれないとしても 人間と共生し、人間の役に立つロボットには進化していくのでは、という期待は込められていると感じた。
 最近では二本足で走ったり、ボールを蹴ったり、踊ったりするロボットもあるが、いったいそれが何の役に立つのか? 単に技術開発力をアピールするためだけか、独りよがりな一種オタク的なものか? ガンダム世代の私としては最近商品化されている人間型のロボットには惹かれるものがある。 しかし、ついにここまで来たかと言う思いがある一方、こんな高い玩具を買う人間なんて限られるし、儲かりっこないと冷めている。
 ある程度、人間に似た動作が実現できるとなると、すぐに私の興味は別の所に移っていく。スピルバーグ映画「A.I.」のような、 まさに人間かどうかの区別も付かないほどの外見と知能の実現である。 外見には特に興味はないが心(意思や感情)に関する問題は壮大で奥深いテーマだと個人的には考えている。 ロボットが人間になれるかどうかは外見よりも心の問題が大きい。人工的な機械が心を持つことが出来るのか? 果たしてそれを心と呼べるのか?哲学的な議論になりそうだが、第2章ではロボットに心を持たせることについて触れている。 実際、人間とある程度会話を交わしたり、感情を読み取って反応するような人間らしさを持ったロボットも開発されていると聞く。 人間の思考や感情をどう定義、プログラミングし、電子計算機的に実現するか?まだまだ未解明な領域は大きいようだ。
 日本の子供達の理科離れ、科学離れが危惧されているが第9章の最後に著者が言っているように、 子供達に科学へ興味を持たせるのにロボットは教材として最適ではないか、というのには賛成だ。 一般家庭でも買える価格になればTVゲームに飽きた子供たちにはきっと面白い玩具になるだろう。 ラジコンカーでレースをする延長線で、ロボットを使った新たな遊びも現れることだろう。それでこそロボット立国と言える。

○印象的な言葉
・ロボット開発の主流がハードウエアからソフトウエアに移りつつある(機械産業から情報産業へ)
・デスバレー:研究開発された優秀な技術が製品化に結びつかない様子
・当面目指すべきロボットはある程度の汎用性を持った専用機械
・現在の人工知能研究は知能の本質的解明、実現にはほど遠く、実用化の事例も極めて少ない
・大脳皮質の活動に基づく思考の本質はほとんど未解明のまま
・成長は意欲と密接な関係
・意識は氷山の一角であり、水面下の無意識部分が限りなく大きい
・知能は環境との相互作用にもとづいて触発される
・経済産業省はゆくゆくはロボット産業を自動車並の基幹産業に育てたいと願っている
・渡り鳥や魚の群れにはリーダーはいない
・あまりロボットにとらわれすぎると問題の本質を見失うおそれがある

-目次-
序 ロボットと人間は近くて遠い仲
第1章 ロボットは経験から学ぶことができるか ―学習するロボット
第2章 ロボットに心を持たせることはできるか ―ロボットにおける知、情、意
第3章 ロボットはどうすれば人間と共生できるか ―産業用ロボットからサービスロボットへ
第4章 ロボットは群れることができるか ―自律分散ロボットシステム
第5章 ロボットはどれだけ環境を認識できるか ―視覚センサー、触覚センサー、そして聴覚センサー
第6章 ロボットが巧みに手作業を行うためには ―マニピュレータの力制御
第7章 ロボットはどうやったら歩くことができるか ―歩行機械からヒューマノイドへ
第8章 知能ロボットの研究はいつ頃始まったか ―知能ロボット研究の歴史
第9章 作業をしないロボットたち ―癒し系ロボット