読書メモ
・「オープンソースがなぜビジネスになるのか」
(井田 昌之、進藤 美希:著、MYCOM新書 \780) : 2006.10.14
内容と感想:
オープンソースとは狭義ではソースコードを公開する開放型の開発手法のことで、Linuxという大きな成果を生み出している。
Linuxの成功によってこの方式や、それによって生み出される成果物をビジネスに活用しようという動きが広がり、
単にソフトウエア開発の手法やその業界に限定されない、幅広く大きな意味を持つようになった。一種の思想・哲学とも言える。
1990年代前半にIBMが主力のメインフレーム事業からオープンシステム化、ダウンサイジング化にビジネス転換を始めたのを
契機にIT業界のビジネスモデルも大きく変化し始めた。
そしてIBMはオープンソースコミュニティにも積極的に協力するようになり、2001年には統合開発環境Eclipseを
コミュニティに寄付まで行っている。その戦略はオープンソースの裾野を広げ、革新を促し、そのフィードバックにより
自らも革新しようというところにあった。
コミュニティに任せられるものは任せて、高収益の見込める付加価値に高い仕事に内部の技術者を振り向けるという判断だ。
オープンソースを自社の製品と組み合わせることで相互補完ができ、競争力も維持できると言うビジネス上の戦略である。
また、IBMはLinux関連の特許もコミュニティに寄贈している。本気である。
この画期的とも言えるIBMの動きに同調する企業も増え、日本でもシステムインテグレータがオープンソースに積極的に取り組んでいる。
本書ではフリーソフトウエア運動のリーダー、リチャード・ストールマンにも多くのページを割いているが、
世界のハッカー達に任せられるところは任せるという開発スタイルでLinuxを成功させたリーナス・トーバルズとは
プロジェクトの進め方について微妙な関係となっているそうである。
ところで今年2006年に施行された新会社法により日本版LLC、合同会社という会社形態が設立可能となった。
本書でもこの動きに触れている。オープンソースコミュニティにいる優秀な技術者を結びつけてビジネスに
つなげる仕組みとして合同会社のメリットが活かせるのではないかと述べている。
従来とは違った会社形態として私も注目している。技術偏重で独立心は強いがビジネス感覚がないとか、
社会や会社への適応能力が低いと言われる技術者へのメリットが大きいのではないかと考える。
能力はあるが環境や自らの性格のせいで能力を活かせていない人も多いだろう。
会社の形態だけでうまくいくものではないが、この仕組みを活かすことで日本のソフトウエア産業を活性化させ、
世界的な競争力の向上にも役立つのではないだろうか。
また自社に優秀な人材やすぐに適材を適所にアサインできないような中小企業が社外の人材と智恵を活用することが
できればビジネスの可能性も広がるだろう。
オープンであることで新しいよい技術が普及し、更なるアイデアが生まれる、
という循環が生まれ技術も進歩し、景気もよくなるだろうとも書かれている。同感である。
○ポイント
・GNU GPLは著作権からの逆転の発想で生まれた(コピーライト←→コピーレフト)。著作権で自由を守る
・ハッカー文化:芸術家。互いに利用し合い、批判し合い、育てあう。美。向上の可能性
・NIH(Not Invented Here):自主独立の精神
・GFDLはWikiPediaにも採用されているライセンス
・もともと産業界の現場レベルでもオープンソースに対するニーズはあった
・Linuxは世界中の優秀な開発者たちの強力な集合知性によって急激な進化を遂げた
・prosumer: 消費者でもあり生産者でもある。自分達が使いたいものを自分達で作っているのがオープンソース開発者
・タコ(初心者)を助けよ。一生懸命開発に取り組もうとする初心者を大切にする
・ソースコード検索エンジン・gonzui
・ハッカーの動機:新たなスキルを学び開発したい、知識とスキルを共有したい、向上心、先端技術の新しい地平を目指すことを楽しむ
・最新技術を持たない発展途上国でもオープンソースの活用で一気に最先端に出られる
・オープンであることがイノベーションの鍵
-目次-
第1章 オープンソースの原点
第2章 オープンソースビジネスの展開
第3章 日本のハッカーとコミュニティ
第4章 次世代への展望
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