読書メモ

・「日はまた昇る 〜日本のこれからの15年
(Bill Emmott :著、吉田 利子 :訳 、草思社 \1,200) : 2006.10.21

内容と感想:
 
著者は英国『エコノミスト』誌編集長で、1990年に出した「日はまた沈む」で日本のバブル崩壊を予測したとのこと。 そのバブル崩壊後、失われた10年以上の年月を経て、今度は前著とは逆のタイトルで日本経済の復活を予言するのか?
 債務とデフレに悩まされ続けた15年間の景気低迷期から日本は回復したと言う。 私にはあまり実感はないがメディアが報じる数字や論調によれば、徐々に景気はよくなっているようにも感じる。 その時間のかけ方を「長期間の漸進的変化(改革)の積み重ねの結果」と表現し、「ウサギとカメ」のカメの歩みにも例えている。
 本書では経済のみならず日本の政治、靖国問題や歴史認識に対するアジア諸国との微妙な関係にも触れ、 アジアを含む国際社会の中の日本の役割にも期待している。 著者の景気回復や外交努力への期待感が、日本がようやく大人の国になれたかのように思えて、嬉しいような恥ずかしいような。 将来に悲観的になり、自信を失いかけている我々に元気や勇気を与えてくれているのは素直に嬉しい。
 日本も少子高齢社会となり人口も減少を始め、人間で言えば成熟期に入った。 先の自民党総裁選挙を経て、安倍総理が誕生したが、”美しい日本”もよいが、アジアや世界の中で大人の魅力をアピールできる魅力的な日本を目指すべきであり、 我々も成熟した市民に成らねばならないだろう。 3章では世論の声も着実に高まっており、有権者が積極的に声を上げ始めていることを指摘しているが、選挙の投票率は果たして上がっているのだろうか。
 これは戯言になるが、かつて応仁の乱で国中が乱れ秩序が崩壊した日本を、敗戦直後の日本に例えれば、戦国時代が幕開けし、 天下統一を目指して各地で群雄割拠し皆が出世レースを競っていた頃は、戦後の高度経済成長期に例えられる。 そして秀吉が天下統一を果たすと、勢いに乗って海外出兵を目指したが失敗し痛い目に遭う。これはバブル崩壊に似ている。 そして戦乱が終わった後の大坂・江戸間の勢力争いが原因の関が原合戦、大坂冬・夏の陣を経て、戦いの場を失った武士たちのリストラがようやく終わり、 天下泰平の世が訪れたのは、まさに景気低迷に苦しんで回復した現在のようでもある。 豪華で大掛かりな安土桃山文化がまさに近世のバブル文化であったとすれば、成熟社会となるこれからは元禄文化のような市民の文化が花開くのではないか?

○印象的な言葉
・1980年代の株と不動産バブルの時期に資金は間違って使われたが、その後の10年の資金配分はもっとひどく間違っていた。 銀行は「ゾンビー」企業を生き永らえさせ、政治家は歴史に残る大盤振る舞いを行なって金をばらまいた。
・日本は革命の起こる国ではなく、いったん合意のもとにコースが決まったら、忠実かつ着実にそのコースを進む国
・長い調整期間の日本の社会は驚くほど安定していた。生活水準もなんとか下がらずにすんだ。秩序崩壊や暴力沙汰は見られなかった。
・郵政公社の貯金と保険は日本の金融システムのガン
・先の定かでない過激な改革よりは、ゆっくりとした着実な変化を望む日本人
・小泉元総理の郵政解散で民主党は惨敗し、二大政党制の夢はついえた。一党独裁体制に復帰してしまった。 そして自民党は変化に抵抗する保守の党から改革の党に変身しかけている。
・日本政府は北朝鮮問題を利用して軍事と情報面での自立を少々強化しようと図っている。自前のスパイ衛星を打ち上げている
・日中の経済は相互補完的。競合する中国の輸出品は1/5。日本企業にとっては韓国との競争のほうが厳しい
・歴史上、多くの戦争が事故や混乱や誤解から起こった
・中国企業はハイテク製品での研究開発の実績が乏しく、グローバルな市場での競争で苦労するかも知れない。高付加価値製品への移行が難しい
・中国の不安定要因:土地や財産をめぐる問題、環境悪化、失業をめぐり抗議行動やデモが多発。民主的な改革の要求の高まり
・朝鮮半島の統一が実現すれば駐留アメリカ軍の撤退を要求するだろう。統一プロセスには膨大なコストがかかる
・欧州連合に匹敵する東アジア機構を育てるのが日本にとって正しい外交路線
・靖国問題は神社が政策に違背して行動し、政府のコントロールの外にあるところにある
・40,50代の日本女性は米英仏独と比べて低賃金で地位の低い仕事に就いている

-目次-
1章 日はまた昇る
2章 日本型資本主義
3章 新しい政治、新しい政治家
4章 新しい東アジア、古い反目
5章 靖国神社と歴史問題
6章 二〇二〇年の日本