読書メモ

・「最強の競馬論
(森 秀行:著、講談社現代新書  \680) : 2006.09.30

内容と感想:
 
著者はJRA栗東(関西)所属の調教師(トレーナー)である。リーディング・トレーナー上位の常連でもある実力派のトレーナーである。 騎手出身のトレーナーが多い中(7、8割という)、厩務員、調教助手を経て、1993年に調教師免許を取得し、厩舎を開業した。 シーキングザパール、アグネスワールドでフランスG1(1998年、1999年)を勝っているように海外遠征にも意欲的である。
 「調教師は経営者」、お客(馬主)を儲けさせなくてなならない、と言うように競馬はビジネスであるという意識が強い。 本書はその著者が実践している競馬論をつづった本である。これを読めば森厩舎の馬のレースの使い方が分かり、 馬券判断に役立つかも知れない。馬券必勝本ではないので注意。
 強い馬を育て、レースに勝って賞金を稼いでくれれば、馬を預けてくれた馬主は喜ぶし、厩舎のスタッフも実入りがよくなる。 そのためにはしっかりした調教技術が必要であり、勝てそうな、あるいは稼げそうなレースを選んで出走させていく必要がある。 著者は如何に効率よく持ち馬をレースに出し、よい結果を出せるか、と考え様々な工夫を重ねてきた。 その一つが厩務員の担当馬制の廃止。スタッフ全員がローテーションを組み、全ての馬の世話をする。 賞金はスタッフ全員で分配する。これで馬の入れ替えもスムーズになり、厩舎全体のパフォーマンスが上がるのだ。
 日本の競馬界は閉鎖的で村社会と言われるが、不景気が続いたせいか、生き残りのために最近では競走原理が 持ち込まれてきている。 馬の預託料が自由化され、また成績によって調教師に与えられる馬房の数が増減されることになった。 調教師の経営努力がより求められるようになったのだ。
 「おわりに」では中央競馬と地方との格差拡大を嘆き、調教師の定年年齢引き下げを求めている。 様々な娯楽がある現在では馬券の売上の伸びは期待できそうもないが、調教師を始め競馬関係者はディープインパクトのように世界でも 通用するような馬をつくって、どんどん海外進出して、世界を股にかける夢のある競馬界にしていって欲しい。

○印象的な言葉
・強い馬をつくることが調教師の最大の使命
・日本よりも賞金が少ない海外遠征をするのは種牡馬としての価値を上げるため。種牡馬を制するものが競馬ビジネスを制する
・二番煎じはやめろ、先駆者になれ、パイオニアになれ(戸山調教師)
・お金を惜しんだら商売にならない。たくさん稼ごうと思ったら、たくさんお金を使う
・痩せた日本の土壌よりもケンタッキーのようなカルシウムを豊富に含んでいる肥沃な土地で生まれ育った馬が有利
・本当に強い馬は逃げて強い馬「テンよし、中よし、終いよし」
・芝で強い馬はダートでも強い
・競走馬の能力は精神的な部分が占める割合が大きい
・牝馬のほうが夏の暑さに強い。身体の大きい牡馬のほうがバテやすい。脂肪がお落ちにくい馬は身体が絞れる夏に活躍することもある。
・馬を故障させることなく最大限に鍛え上げる調教技術が問われる
・ラムタラの仔が走らなかったのは繁殖牝馬に恵まれなかったから
・武豊が上手いジョッキーだと言われるのは勝てる馬できちっと勝つ。失敗の確率が低い
・日本の騎手のレベルは上と下の差が大きい
・いい馬をつくるには、いい馬をつくることができる人を育てなくてはいけない
・日本馬は比較的速い時計が出るフランス(の馬場)のほうが力を発揮しやすい
・凱旋門賞(仏)、ブリーダーズカップクラシック(米)を勝つのが欧州のホースメンの最大の夢

-目次-
第1章 調教師という仕事
第2章 馬の見方
第3章 馬の個性
第4章 種牡馬
第5章 騎手
第6章 調教
第7章 番組
第8章 海外