読書メモ

・「下流社会 〜新たな階層集団の出現
(三浦 展:著、光文社新書 \780) : 2006.02.25

内容と感想:
 
現国会でも議論されている社会格差の問題。本書の題名もショッキングだったが、本書の出る以前から格差の拡大を指摘する声は出てきているようだ。 世論調査などでもある程度の格差があるのは仕方がない、という言葉も聞こえてくるし、小泉首相も格差の存在を否定していない。
 この間まで”一億総中流”などと言っていたはずじゃないかと悠長なことを言っているうちに、時代は変化しつつあるようだ。 社会が二極分化しているかのような勝ち組、負け組などという言葉もよく使われるが、嫌悪感を覚えるのは私だけだろうか。
 著者はマーケティングが専門であることもあって、物を売るために国民の生活、消費など社会情勢をより深く見つめようとしている。 ここでは独自の調査結果や統計データなどから、経済学者や社会学者とは異なった”消費”の観点から階層問題に取り組んでいる。
 「下流」とは単に低所得ということではなく、人生への意欲の問題としている。その結果、低所得となり下流的な生き方になるのだと言う。 「鶏が先か、卵が先か」的な議論になりそうだが。意欲とは働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲などを指しているが、意欲を失った若者が担う将来の 日本の姿とはどういうものだろう。恐ろしい。ただでさえ少子高齢化、人口減少が進行し国力も落ちていくのだ。
 著者は特に団塊世代ジュニアと呼ばれる若年層の下流化が進行していると指摘している。 衣食住に満ち足りた日本では頑張らなくても、それなりに楽して生きていけるのだ。 若者達は既に何かを諦めたか、あるいは悟ったのか。それが意欲がないと受け取られるのかもしれない。
 所得格差が広がり、学力格差が広がり、希望格差も拡大する。恐ろしいのはその格差が固定化することだ。 親の階層によってその子供の人生も固定化するかも知れないのだ。ますます下流層は無気力になり、意欲は低下していくだろう。
 あとがきで断っているように、本書で取り上げた著者独自のアンケート調査結果はサンプル数も少なく、統計学的有意性に乏しいかも知れない。 また、本書の記述の多くは仮説だとしている。その上で「おわりに」では下流化社会を防ぐための提言をしている。 特に教育の機会について提言しているが、インパクトに欠ける印象。就職氷河期といわれる時期に就職できなかった若者が、 フリーターやニートとなっている現在。この現状をどうしたらよいか、という意見も聞きたかった。

印象的な言葉:
・中流化から階層化へシフトすると新しいビジネスモデルが必要となる。中流モデルの商品は売れなくなっている。デフレも原因。
・好きなことだけしたい、嫌いな仕事はしたくない、という若者が増加?
・自分には能力があると思っている、将来よりも現在を楽しみたい、という若者が増加?
・大きなメディアイベントに依存した受動的な存在になっているのではないか
・コミュニケーションが苦手と思い込まされてしまった子供は自分自信を負け組に分類している
・親は自分の価値観、人生を子供に押し付けてはいけない
・親、行政、社会はすべての子供にできるだけ多様な人生の選択肢を用意してやるのが義務。活躍する可能性を開いてやらねばならない。
・居住地の固定化、付き合う人間の固定化。狭い村社会と同じ。インターネット社会なのに自ら現実の行動範囲としての世界を縮小させている。

-目次-
第1章 「中流化」から「下流化」へ
第2章 階層化による消費者の分裂
第3章 団塊ジュニアの「下流化」は進む!
第4章 年収300万円では結婚できない!?
第5章 自分らしさを求めるのは「下流」である?
第6章 「下流」の男性はひきこもり、女性は歌って踊る
第7章 「下流」の性格、食生活、教育観
第8章 階層による居住地の固定化が起きている?