読書メモ

・「ユング 〜こころの秘密を探る「ヴィジョン力」
(齋藤孝:著、大和書房 \1,400) : 2006.10.01

内容と感想:
 
精神医学・心理学の世界ではユング(Carl Gustav Jung)の名を知らない人はいないであろう。 一時期、集中的に著作を読んだこともある河合隼雄氏はユング研究所でユング派分析家の資格を得て、日本にユング心理学を 紹介した人であり第一人者として知られる。 そのユングは集合無意識という概念を構築した精神科医だが、20世紀の哲学、思想界に大きな影響を与えた。 本書はユングの功績をやさしく解説したユングの伝記、ユング入門書といった本。
 無意識論はユングの師でもあった(後に決別)フロイトが広めたことで有名であるが、フロイトが あくまで個人の世界のものとして捉えたのに対して、人類共通のものとして捉えた。 フロイトが心の病の中心に性を置いたこと(性理論)にもユングは物足りなさを感じていたから、師弟関係の解消は仕方がなかった。 フロイトの権威主義的な態度にも我慢ならなかったようだ。精神医学を自分の進む道と決め、真理の探究のためには当時は異端と言われていた フロイトにも師事した。あるいは非ヨーロッパ世界に出かけていき、外からヨーロッパの「影」をみたり、 東洋思想にも触れてマンダラを取り入れたりと、あくなき真理の追究の旅を続けた。
 集合無意識は原始の時代から人間が同じ元型的な心理構造をもっている、という考え方で、 人間が生まれたときからもっている一種の情動の原点の一つであり、情緒性の基盤なのだそうだ。 (これは私の解釈だが)もし人類が進化の過程で、遠い祖先から代々、思考や経験などを無意識の中に記憶を何層にも重ねるようにして 沈殿させ、少しずつ蓄積してきたとしたら、そしてそれがDNAで子や孫に受け継がれてきたとしたら、と考えると改めて生命の不思議を感じる。 また、その人類の記憶が夢の形で映像として現れるのだとしたら、その夢は我々に何を告げようとしているのだろう?
 本書で物足りなさを感じたら(私は感じた)、巻末の参考図書を読んで、より深い世界を探るのがよいだろう。

○印象的な言葉
・本当の自分の生命は地下茎のように地中に隠れていて、変わらないものがある
・(現実世界の生活を「花」にたとえて)この世以外にも重要な世界がある
・全人類の意識はひとつにつながっている
・自分についての理解は私の持っている唯一の宝物
・その人の意識の形がその人の世界の形
・ナチスドイツの狂気はドイツ人自身の無意識につながっている
・心はdこかで誰かが考えていたこと。いつか思ったことを再構成したもの
・私達の心の奥底には人間の歴史が隠されている。
・一箇所を延々と掘り続けると突き抜けることができる
・師から学ぶべきことは学びながら、飲み込まれず、やがて師を超える
・夢には人類の過去の象徴が現れたり、時には自分の未来を告げる
・男性であれ女性であれ、潜在的可能性としては両性具有的
・集合的無意識はあくまで仮定であって実態として証明し得るようなものではない

-目次-
第1章 心の秘密を探求した -ユングの考え方
第2章 哲学からオカルトまで巨大な影響を与えた -これがユングの世界
第3章 「夢」を極めた男は超ロマンティスト!? -ユングのこだわり人生絵巻
第4章 深い思考のコアをつかむ -キーワードで読み解くユング
第5章 知のカリスマは実際こんな人でした -エピソードでわかるユング