読書メモ
・「ICタグのすべて」
(井上 能行:著、日本実業出版社 \1,500) : 2006.12.16
内容と感想:
ICタグ、またはRFIDと呼ばれる装置が注目されている。
装置自体の構造は極めてシンプル。ICチップとアンテナだけだ。これがサイズも極小で、銀行ATMなどのようなカードリーダーを通さなくても、
リーダーに近づけるだけで(非接触という)情報を読み書き出来る便利さを持つ。
身近なところでは既にJR東日本のスイカや携帯電話のオサイフケータイなどにも応用されて、
様々な分野へ導入が広がり始めている。
本書はICタグの仕組みやビジネスへの応用、課題などを分かりやすく解説している。
超小型化技術は日本のお手の物だが、ICタグ単体ではビジネスにはならない。物作りだけでは量産が進めばすぐにコストは下がり、
儲けも少なくなる。ICタグが本領を発揮するのはその応用ビジネスである。
最も期待が大きいのは生産・流通の現場での生産性向上である。ICタグを核としたソリューションを、付加価値の高いサービスとして売るのだ。
1個1個のICタグには識別用のデータが書き込まれているから管理が楽になるのだ。ICタグが様々なモノに取り付けられることで
一体どんなに便利な世の中になるかどうかは、本を読んでみて考えて欲しい。
(応用分野によって書き換えできたり、通信を秘匿できたり、高機能なものもある)。
課題は国際的な標準化作業。アメリカでは主に生産・流通の現場での利用を目指してきて小売流通現場に導入が進んでいるようだが、
日本ではユビキタス社会を念頭に置いたより高度な利用を目指してる(食品のトレーサビリティを求めるような)。
傍から見れば技術先行型の日本の悪い所が見え隠れする(よい技術だけでは普及しないことも多いから。コストに見合ったメリットがあるか?)。
欧米ではICタグが付いていると持ち主が特定できてしまったり、その情報が悪用されかねないなどセキュリティやプライバシーへの不安から抵抗が強い。
便利なだけに諸刃の剣と言った悩ましいところではある。
これをビジネスチャンスと捉え、発展・普及させて日本の経済成長に貢献できるかどうか、は産官学がうまく連携して他国とも強調して軌道に
乗せていけるかどうかに懸かっている。応用には無限の可能性が秘められているし、アイディア次第ではビッグビジネスに結び付くだろう。
個人的には家庭にまで入ってきた場合を考えると、やはりセキュリティの問題など心理的な障壁を取り除くことは普及の重要な課題になると考える。
また、あらゆるものにICタグが付くことで膨大な製品情報を管理できることになるが、その情報の効率的で安全な管理技術・仕組みをインフラとして
整備していくことも重要だろう(ICタグを付けるのは簡単だが、その情報を管理するコストを誰が負担するのか?)。
○ポイント
・人体に埋め込むICタグ?!
・無線通信用に使える電波の帯域の日本と海外との違い
・高速通信できるICタグ
・印刷技術を応用したICタグ製造技術
・廃棄の問題、リサイクルの可否
・偽造や改竄など不正利用の問題
・ICタグが増え過ぎたときの干渉や読み書き誤りの問題
・イラク戦争で米軍は兵站(ロジスティックス)へ利用。国防総省が納入品へのICタグ取り付けの義務化を推進
・ICタグ自体には電源不要
・ucode(ユビキタス・コード、ユビキタスID)
・ICタグを強制されない権利
○参考情報
・@IT : RFIDシステム構築とICソリューションを支援する情報フォーラム
・@IT : EPCが変える小売流通、先行する欧米市場はいま
・@IT : (ICタグの標準化団体)EPCglobalとの違い。EPCglobalもHibikiの認定作業を進めている。
-目次-
序章 本格的な普及が始まろうとしているICタグ
1章 ICタグとはどういうものか
2章 ICタグで何がどう変わるのか
3章 ICタグの主戦場は「流通」だ
4章 実用化のための実験は最終段階へ
5章 ICタグの潜在需要は無限大
6章 最先端のICタグ
7章 ユビキタスIDのしくみ
8章 日本vs米国―ICタグの標準化競争
9章 大いなる未来と残された課題
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