読書メモ
・「文明崩壊 〜滅亡と存続の命運を分けるもの (上)」
(ジャレド・ダイアモンド:著、楡井 浩一 :訳、草思社 \2,000) : 2006.12.09
内容と感想:
全米ベストセラーの邦訳。
滅亡し、現在は人も住まない、遺跡だけが残る文明が世界各地にある。
一方で長く文明を維持し、繁栄し続ける社会も存在する。
その滅亡と存続を分ける要因、法則性を著者は発見した。
本書でが「文明の崩壊」を各地の実例から検証し、環境的な要因の大きさを記している。
それらは現代の文明社会への警告でもある。
本書は上下2巻の内の上巻である。
取り上げられている文明は現在では世界遺産となっているものばかりである。
・マヤ遺跡、マヤ文明
・イースター島(チリ、ラパ・ヌイ国立公園)
・メサ・ヴェルデ国立公園 (コロラド州、インデイアンのアナサジ族)
・ヘンダーソン島 (ピトケアン諸島)イギリス領
世界遺産登録されることで、このような歴史的遺物はTV番組や旅行のツアーなどで取り上げれるようになった。
滅びた文明にロマンを感じるのは不謹慎かも知れないが、実際、現代の人々は私と同じようにきっとロマンチック、あるいはノスタルジックなイメージを
持つのだと思う。
マヤ遺跡やイースター島の巨石像の謎などは中学生頃に興味をもって本を読んだりTVを見たりしたこともあったが、
滅亡の要因までは意識できなかった。
いったい無言の遺跡たちは我々に何を語るのか?
本書がそれら文明の崩壊の謎を解明する、という意図で書かれているらしいことは
十分意識した上でワクワクした気持ちで読み進めることができた。
遺跡というくらいだから現在は人は住まない土地である。一時は栄華を極めた文明であったが、
そこの住民達は一体どこへ消えたのか?彼らは飢え死にしたか、内乱や戦争で命を落としたか、よそへ移住したかのいずれかである。
そこに至る過程で様々な環境的な問題が発生していたことが、各地の崩壊した文明に共通していることを本書では知ることができる。
大まかに以下の8つの要因を挙げている。森林乱伐、植生破壊、土壌問題、水資源管理問題、鳥獣の乱獲、魚介類の乱獲、外来種による在来種の駆逐・圧迫、
人口増大、環境侵害量の増加である。これらは現代文明においても問題になっているが、これらに加えて現代では、次の4つの新たな環境問題が
現代文明を崩壊させかねない脅威となっている。(人為的に生み出された)気候変動、有害化学物質、エネルギー不足、光合成能力の限界、である。
しかしこれらの環境問題のみで社会が崩壊するわけではなく、それ以外に著者は社会的な枠組みが潜在的な要因としてあったと言う。
それは近隣の敵対集団、友好的な取引相手、環境問題への社会の対応などである。
本書は意外にも現代のアメリカのモンタナ州の話から始まる。モンタナにおける環境被害とそれに伴う社会の矛盾について書いているが、
それは世界のあちこちで起きていても不思議はない要素を含んでおり、過去に崩壊した社会にも共通するものもあれば、
現代ならではの新たな問題も含まれている。それだけに昔よりは進んだ現代文明においても決して安泰ではなく、様々なリスクを抱えているということを
改めて認識させられるだろう。それだけに以降の章を読むときに、現在の我々の身近な問題として捉えることができ、考えさせられることが多いだろう。
最近、人里に出現する熊が多いと聞く。人間が彼らの生活環境を破壊して住みにくくしているのは確かだ。
しかしそれだけでもない。生態系の変化が彼らの食料確保を困難にしているようだ。これも地球温暖化の影響だろうか?
温暖化の原因は人間たちの生活や産業活動により、多くの二酸化炭素を発生させていることによる
地球の温室効果だと言われる。温暖化は他にも海面上昇など様々な影響を与えている。
今現在の暮らしが豊かであればよいのではなく、子や孫の代まで安心して豊かに暮らせるように、
将来を見越した社会でなければ、いつか新たな文明の崩壊が歴史に刻まれるかも知れない。
そうならないためにも企業は環境に責任を持った活動をしなければいけないし、
環境意識の低い国や地域には早急に啓蒙をしていかなければならないだろう。
一般市民も一市民として環境に優しくできることを少しずつでも積み重ねていくことが大事だろう。
下巻も楽しみである。
-目次-
プロローグ ふたつの農場の物語
第1部 現代のモンタナ
第1章 モンタナの大空の下
第2部 過去の社会
第2章 イースターに黄昏が訪れるとき
第3章 最後に生き残った人々 ―ピトケアン島とヘンダーソン島
第4章 古の人々 ―アナサジ族とその隣人たち
第5章 マヤの崩壊
第6章 ヴァイキングの序曲と遁走曲
第7章 ノルウェー領グリーンランドの開花
第8章 ノルウェー領グリーンランドの終焉
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