読書メモ
・「国家の品格」
(藤原 正彦:著、新潮新書 \680) : 2006.06.10
内容と感想:
著者があの新田次郎の次男であることは本書を買って初めて知った。数学の学者さんである。
著者は日本の誤った国際化、アメリカ的資本主義化により「国家の品格」が失われたと嘆く。
暗にライブドア事件を例に挙げて、アメリカ的資本主義に侵されたその品のなさ加減を批判する文章も見られる。
最終章にも書かれているように世界を支配してきた欧米の流儀が破綻を見せ始めた、世界が途方に暮れている、というのは
私も共感できた。力の入った熱い語り口であるが、多くの点で共感できる本だ。
私はそれほど昔の日本を知っているわけではないが、単なるノスタルジーではなく、昔の日本はよかった気がする。
経済成長の代償として大事なものを失ってきてしまったのだ。そういう私自身、心が荒んでいるな、と思うこともある。
では日本にとっての「国家の品格」とは何か?著者はそれは「情緒と形」だという。情緒とは懐かしさやもののあわれといったもの、形とは武士道精神からくる行動基準である。
日本はその失った国家の品格を取り戻さねばならない、アメリカを真似するだけの普通の国になってはいけない、
品格があれば世界に範を垂れることができ、世界へ貢献できるはずだと言う。
近年、武士道精神が見直されてきている。その中でも「惻隠の情」という難しい言葉は、弱者へのいたわりとか敗者への涙、儚く悲しい宿命の共有・連帯、不運な者への共感、
他人の不幸への敏感さ、などの意味を含んでいる。如何にも日本人的だなと感じる。本当はそれが当たり前なのだと思う。
世界に通用する普遍性があるとも著者は言う。人類誰もが人間の心の奥底では似ているのだ。
日本人がそういうものをどこかに忘れてきてしまった要因は教育にあるだろう。近年、日本語や日本文化、歴史を見直す動きが見られるのも、
このままでは日本は駄目になる、そういう危機感の表れだろう。
さてサッカーW杯が開幕した(6/9)。国の威信を賭けて世界から最高峰の選手が集う場でもある。最高の舞台だけにスポーツ選手にも品格が求められると思う。
日本代表チームは勝っても負けても日本の「国家の品格」を見せて欲しい。
○印象的な言葉
・英国は論理より監修、伝統、誠実さ、ユーモアを重んじる
・人間は利益のためなら、いとも簡単に美しい言葉や見事な論理を作り出す
・安定した社会が国の底力。実力主義もよいが、ベースは年功序列、終身雇用であったほうが社会は穏やかで安定する。
・弱肉強食に徹すればアメリカのように弁護士や精神カウンセラーが大量に必要になる
・デリバティブが最大級の時限核爆弾になっている。いつ世界経済をめちゃくちゃにするか分からない。
・小学校から英語教育は不要。国際人を作るのならまず国語から。日本人としての教養、まともな思考力を身につける。
・論理で全てをカバーできない。論理で説明できないこともある。
・いじめに対しては武士道精神にのっとって「卑怯」を教えよ
・民主主義や主権在民が平和を保証するわけではない。戦争を起こす主役は実は国民である。
・国民の判断材料はマスコミ、世論である。立法・行政・司法の三権よりもマスコミが第一権力になっている。
・真のエリートとは圧倒的な大局観や総合判断力をもち、いざとなれば国家、国民のために命を捨てられる人
・平等などはありえない。定義すら不能。武士道精神の中軸「惻隠の情」があれば差別はなくなる
・神は自由も平等も与えなかった
・論理は大事だが、論理の出発点を正しく選ぶことが大事。それには情緒や形が必要。
・日本人は自然への感受性や美を感じる心が強い。「悠久の自然と儚い人生」という対比に美を感じる。移ろい行くもの、儚く消え行くものにすら美を感じる。
・日本人は茶道、華道、書道など何でも芸術にしてしまう。そこでは美や礼を重視する。
・人間の脳の99%は利害得失で占められている。生存本能により遺伝子レベルで組み込まれている。残りの1%を何で埋めるかが重要。
・すぐに役に立たないことを命がけでやってる人の層が厚いことが国家の底力。厚みと余裕がないと長期的な発展はない。
・懐かしさは家族愛、郷土愛、祖国愛、人類愛の基本
-目次-
第1章 近代的合理精神の限界
第2章 「論理」だけでは世界が破綻する
第3章 自由、平等、民主主義を疑う
第4章 「情緒」と「形」の国、日本
第5章 「武士道精神」の復活を
第6章 なぜ「情緒と形」が大事なのか
第7章 国家の品格
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