読書メモ

・「逆説の日本史 9 戦国野望編
(井沢元彦:著、小学館 \1,550) : 2006.01.28

内容と感想:
 
シリーズ「逆説の日本史」の第9巻。
 本巻でカバーする時代は以下の目次にあるようなトピックが登場する時代。15世紀半ばから16世紀の頃である。第一章の琉球の歴史や、 第二章の倭寇の活動した時代はもう少し幅がある。 第9巻にしていよいよ私の最も興味のある戦国時代に入ってきた。
 第一章ではあまり知られていない琉球の歴史について書かれている。琉球は現在の沖縄県に当たる。 1993年のNHK大河ドラマ「琉球の風」(原作・陳舜臣)は全く見ていないのだが、そういう点でも私は琉球の歴史に疎い。 琉球王国は今の中国を宗主国と仰ぎ臣従を誓っていた。現在の沖縄の人が誇らしい時代としているのが貿易立国として独立していた、この大交易時代だそうである。 意外なのは主に中国との交易で利益を上げることが出来たのは、当時の明国の中国人が貿易に従事できなかったためらしい。これは商業に対する差別があったためと言う。 現在その琉球が日本の領土・沖縄県として属していることの経緯までには触れられていない。
 第二章では今では常識である「倭寇 = 日本人の海賊」ではないことを記している。倭寇のことよりも鉄砲伝来の話のほうが興味深い。 鉄砲はポルトガル人が漂着したような形で”伝来”したのではなく、明らかに鉄砲を売り込むために意識的にやってきたのだという。 彼らは実は中国船に乗って来ており、その船主は倭寇のボス・王直だったらしい。彼らの誤算は”伝来”の翌年には日本人は鉄砲の国産化に成功したこと。
 第三章では戦国時代の前半を彩る役者として、朝倉孝景、北条早雲、毛利元就を取り上げている。
 第四章では武田信玄が早く死ななくても、天下人にはなれなかったという分析を展開している。それは同族経営の限界と、自ら出家し当時の最大利権団体・寺社勢力の一員になったことでも説明できるとしている。 また、無駄な時間と労力を川中島合戦に費やしていたことからも天下取りは頭になかっただろうと言う。
 第五章では織田信長が如何に戦略的に天下取りに向かっていたかを描く。

○ポイント
・百姓とは本来、ホメ言葉であった。差別的な感覚はない。イコール農民ではなかった。それが農民こそ”本来の国民”だということになった。
・江戸時代の旗本は給料を米で支給されていた。支給日はみなあ同じ日であり、米が世の中に溢れる時期(相場の安い時期)にわざわざ米を売り、金に換えていた。
・近代ユダヤ思想:国家、民族、身分という枠を越えた発想。⇒民主主義⇒インターネットの思想へ
・海は自由の象徴(三島由紀夫)
・日本人は絶対的な権力を嫌い、一極集中を避けてきた
・戦国レースの優勝者は信長、準優勝は元就。国を奪った男・早雲。謀略王・元就。
・厳島(宮島)合戦はどうも出来すぎている。水軍によるところが大きかった。
・一石 = 十斗 = 百升 = 千合。米一石とれる田の広さが一反 = 360坪。一石 = 人一人が一年に食べる米の量。
・上杉謙信は日本史上、極めて義に篤い人。最も自分の生命・財産に執着のない人。
・信長の長所は人材の能力を見抜く力
・長篠合戦:武田の騎馬軍団は火縄銃の轟音だけで暴れだし、弾が当たらなくても効果があった

-目次-
第一章 琉球王国の興亡編
第二章 海と倭寇の歴史編
第三章 戦国、この非日本的な時代編
第四章 [天下人の条件T]武田信玄の限界編
第五章 [天下人の条件U]織田信長の野望編