読書メモ
・「ゲームデザイン誇大妄想狂」
(清水 亮:著、工学社 \1,800) : 2006.09.24
内容と感想:
本書は自称「額に汗して日銭を稼ぐ駆け出しゲーム・デザイナー」の著者がゲーム・デザインについて記した本である。
タイトルは自虐的に”誇大妄想”としているから本書が真のゲーム・デザインを語れているかどうかは不明である。
あくまで妄想のレベルかも知れないが、本当のゲーム設計の現場を知らない私には何とも言えない。
著者はこれまで携帯電話向けのゲームを数多く手がけたそうである。作り手側から書かれた本であるから、
ゲームビジネスに関わる者の視点やスタンスが窺えて興味深い。最近はすっかりゲームからは遠ざかっている私だが
ゲームで遊ぶことよりも、どちらかと言えば製作現場やビジネスのほうに興味が移っている。
ユーザに「いかに買わせるか」「いかに楽しませるか」、ユーザを飽きさせないか、というのが重要になってくる。
そこで大切なのが1章や2章で出てくる”ゲーム・バランス”である。難しすぎても駄目だし、展開が退屈なのも駄目、
難易度のバランスやストーリー性、意外性が大切だということだ。
3章以降では楽しめるゲームにするために必要なストーリー作り、世界観やルール作りなどについて実在のゲームソフトも実例に
挙げながら著者の考えを説明している。
5章以降では複数のプレーヤーがゲームに参加することで複雑系が形作られ、予測不能な面白さを生み出す(そのかわりデバッグが大変らしい)
ことが書かれている。
付録で掲載されている「恋愛シミュレータ」のソースコード(C++で書かれている)はプログラムの中の
登場人物が勝手に会話をしながら、勝手に恋愛を始めるというシミュレーションである(18ページあるが付録CDもWeb公開もないため
動かしてみたいなら自分でコードを打ち込むしかない)。
これも3人(3つ)以上の登場人物(エージェント)が相互に作用することで複雑系となり、予測不能な状況が生み出されることを
表現している。複雑系を生み出す仕掛けをすることで確かにゲーム性を持たせることができそうではある。
あくまでゲームデザインの理論書ではないから著者が思っていることを書いているに過ぎないが、
ゲーム製作者の考えていることや仕事のやり方などを垣間見ることができた。
○印象的な言葉
・トランプゲームはルールが変化するだけでまったく別のゲーム性をもつ。トランプは映像的には全く変化がない道具だがルールが映像表現に勝っている。
・映画製作ではストーリーアナリシスという手法がある。ストーリーを評価する仕組み
・ゲームソフトの構成要素の8割方は膨大なデータ
・ゲーム展開がワンパターンに陥らないようにするために膨大なデータを作る。「データを作るプログラム」を作ることも
・モンタージュ:全く意味のないバラバラの映像の断片を組み合わせて全く新しい意味を作り出す映像手法。人間が無意識に意味や文脈を見出そうとするのを利用
・適度な省略でプレイヤーの想像力を喚起
・自己組織化:系自身が自発的になんらかの法則性や規則性を獲得
・エキスパートシステムはデータベース化された知識処理システムで、検索エンジンに近い
・英語は単語ごとに区切るため自然言語解析がやりやすい
・人工無能:擬似会話プログラム。
・囲碁では棋士がイメージで打っていることが多い
-目次-
1章 ゲーム・バランスってなんだろう @ゲームを支配する数式の不思議
2章 同 A数値設定の勘所
3章 ゲームとモンタージュ
4章 ゲームにおける世界観の構築
5章 複雑系とゲーム
6章 マルチ・エージェント・システムと恋愛シミュレータ
7章 ネットワーク・マルチプレイヤー・ゲームの秘密
8章 プロジェクト管理と葛藤
9章 人工知能、人工無能、そしてゲーム
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