読書メモ
・「信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」
(宇月原 晴明:著、新潮文庫 \590) : 2006.09.17
内容と感想:
1999年の第11回日本ファンタジーノベル大賞を受賞作品。これが「宇月原晴明」名義でのデビュー作。
織田信長をテーマにした本は多いが、本書の中の信長はこれまで読んだ本とは違ったイメージで描かれている。
最大のポイントは信長が両性具有(アンドロギュヌス)であったという奇想天外な設定にされていること。
(最近、信長は女だったという設定で書かれた本も他の作者から出ている)
本書では天下統一を目指した破壊者、改革者、残虐で猜疑心の強い暴君、といった男性性よりも
美しい女性性を強調し、ファンタジー色の強い伝奇小説になっている(秀吉も信長の女性の部分に心を奪われている)。
もうひとつ特徴的なのは単に戦国時代を舞台にした小説というだけでなく、両性具有者である信長と
3世紀のローマ皇帝ヘリオガバルスとの共通点を巡って、1930年代のドイツ・ベルリンでアントナン・アルトー(フランスの俳優・詩人・演劇家。実在した)
と日本人青年・総見寺龍彦が情報交換し、各々が持つ謎を解明していくという二本立てで構成されている点。
アルトーは少年皇帝ヘリオガバルスに興味をもっている。
一方、信長が建てた安土城の城郭内に建てられたハ見寺(そうけんじ)と同じ姓をもつ龍彦は信長の謎を調べるうちに、
ヘリオガバルスとの関連性に興味をもち、アルトーに接触する。1933年にはヒトラー率いるナチ党が政権を掌握したドイツ。
ときにナチスの突撃隊(SA)に追いかけられることにもなるアルトー。龍彦が彼に接触した真の目的とは・・・。
ファンタジー小説と一言で片付けてしまうのは簡単だが、太陽神バールがユーラシア大陸の西・シリアから大陸の東・日本に伝わり、
牛頭大王(ごずだいおう)と言い換えられ、信長はこれを守護神とした。時間と空間を超えたスケールの大きさもある。
もともと織田氏の祖先は織田剣神社(福井県越前町)の神官の出自であるとされており、
その剣神社に祭られている素盞鳴尊(スサノオノミコト)と牛頭大王は同体とされているそうだ。
最もオカルト的に書かれているのは今川義元の右腕・雪斎(太源崇孚、たいげん すうふ)、斎藤道三の息子・義龍、信長包囲網の信玄、謙信などの死が
呪殺によるもので、そのためにハ見寺の住職・尭照が目・鼻・耳・脚までも奉げていたという点。そしてついには正親町天皇までも亡き者にしようとしていた。
その信長が本能寺で光秀によって討たれるのはこれまでよく知られた史実ではあるが、その真相を本書ではまた意外な形で展開している。
○印象的な言葉
・日本は神々のガラパゴス。全ユーラシアの神秘の終着駅。
・ユーラシアの西の果てアイルランド、南の果てバリ、東の果て日本
・安土城天主は太陽の塔。ハ見寺の三重の塔と合わせ2つの塔をもつ双頭の城だった
・上杉謙信は数回の野戦以外はほとんど攻城戦。成敗するが征服しない
・ヒトラーは「我が闘争」に黄色人種は二流と書いている
・私はユダである(光秀)。「敵は本能寺にあり」(信長からの文)
|