読書メモ
・「美しい国へ」
(安倍 晋三:著、文春新書 \730) : 2006.09.02
内容と感想:
9/1、正式に安倍晋三氏が自民党総裁選挙に立候補を表明した。現時点で安倍氏が最有力であることは誰もが認めるところである。
既に組閣後の話に興味は移っているようだ。全くサプライズのない総裁選になるだろう。
小泉総理の任期は間もなく切れるが、小泉政権が5年間も続くと誰が予想しただろうか?
そもそも小泉さんが総理になること自体サプライズだったのだから。
任期切れの時点で日本の景気が回復ムードなのは彼にとってはラッキーだ。
思えば小泉政権は逆風ばかりであった。日経平均は下がり続け、7,000円台まで付けた(2003年4月)。
郵政民営化法案では抵抗勢力の反対にあい、衆院解散までした。
逆風の中も「破壊と創造」でここまで任務をまっとうした。変人といわれた人だからこそ続けられたのかも知れない。
彼の言動は分かりやすいが軽薄に映る。国会での答弁でも野党の質問をはぐらかす術だけが印象に残る。
しかし逆境の中、痛みを共有しようと訴え、ここまで来た。今となっては彼しかいなかったのだ。
前置きが長くなったが、その劇場国会とも揶揄された小泉劇場閉幕後は安倍さんにはやりづらいだろう。
それは誰が総理になっても同じかも知れないが、まだ50代という若さが国民だけでなく、
国際的にも受けるのではないだろうか。景気が上向きだけに、ハンディも少なくやりやすいとも言える。
若い分だけ政界での経験も業績も少ないが、文字通りの世代交代で新しい風を期待させることは確かだ。
本書は7月に出た本だが、”おわりに”では本書は政策提言の本ではないと言っている。執筆当時は既に当然、総裁選は意識していただろうから、
現時点での彼の政治姿勢や政策の考え方は本の中に現れているはずである。
また彼が題の「美しい国」がどういう国であると考えているかもイメージできるだろう。
これといって政策として強烈なメッセージは伝わって来なかったが、大部分で違和感は感じなかったし、広く国民には受け入れられる内容かも知れない。
それだけアピールには欠けるとも言える。唯一印象的で是非実行してもらいたのは教師免許更新制度と学校評価制度など教育改革である。
”はじめに”では闘う政治家でありたい、と言っている。小泉さんはデフレに抵抗勢力にテロとの戦い、いろんな相手と戦ってきた。
安倍さんの闘いの主戦場はどこだろうか?
○印象的な言葉
・リベラル(自由主義的)はアメリカとヨーロッパでは対立する概念。アメリカでリベラリストというと社会主義的な考えの持ち主
・保守の精神:日本の長い歴史の中で育まれ、紡がれてきた伝統を守る
・戦後の自民党の第一の目標は経済の回復。それは達成されたが損得が価値判断の基準となる、という弊害を生んだ
・外交で政治家個人の信頼関係が果たす役割の大きさ
・政治家を志したのは、こうありたいと願う国をつくるため
・安全保障と社会保障が政治家としての私のテーマ
・アメリカは海外で自国の人権が侵害されたら軍の展開も辞さない
・ナショナリズム:健全な愛国心。アイデンティティの確認。共同体に対する帰属意識。郷土愛の延長線上
・アメリカの強さ:外に向かうときは国益の下に一枚岩になる求心力
・天皇は戦後の憲法で象徴天皇とされる以前から象徴であった。富や権力を誇っていたのではなく、文化水準の高さを誇っていた
・戦後のドイツは10年後には国防軍を創設、NATOにも加盟し、徴兵制も採用
・イラク戦争後のイラクへの自衛隊派遣では、きちんとした装備で行くことができた。湾岸戦争の頃とは違う人的貢献ができた
・中国は「世界の工場」から巨大かつ有望な「消費の市場」へ
・香港を含む日中の貿易量は日米間のそれを上回っている
・加入者が破綻させないという意思を持てば年金制度は破綻しない
・年金財源は保険料と税金が5分5分がよいのでは?
・イギリスでも帝国主義の反動で自虐的な歴史教育がされてきた
-目次-
第1章 わたしの原点
第2章 自立する国家
第3章 ナショナリズムとはなにか
第4章 日米同盟の構図
第5章 日本とアジアそして中国
第6章 少子国家の未来
第7章 教育の再生
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