読書メモ
・「五輪の身体」
(齋藤孝:著、日本経済新聞社 \1,300) : 2006.09.23
内容と感想:
2004年のアテネ五輪の代表選手たち6人との対談集。いずれもオリンピック開催前の取材である。
身体論が専門でもある著者ならではの
トップアスリートへの鋭いインタビューが、彼らがもつ言語化しにくい身体感覚を引き出し、
我々にも分かりやすく変換して見せてくれている。
ハンマー投げ、アーチェリー、レスリング、体操、柔道、トライアスロンとそれぞれ競技種目も異なるが、
彼らが試合や練習の中で自分の身体をどう感じているか、どんな精神状態にあるかなど、なかなか聞けない話が聞けて興味深かった。
実は一番印象に残ったのはトライアスロンの中西選手と彼女のコーチである青山氏との対談。シドニー五輪(2000年)に正式種目に採用されたまだ若い競技。
水泳にしろ、自転車・ランニングにしろ「肩甲骨が推進力の源」というのはまさに”目から鱗”というほどの衝撃であった。
走るときは足を使わないで肩甲骨を意識して動かす。水泳も手で掻こうとしない、自転車でもハンドルを肩甲骨で引くのだそうだ。
こういう感覚を意識したことがなかったから、今度泳ぐときや走るとき、自転車に乗るときには意識してみようかな、とも思った(トライアスロン選手ではないが)。
著者自身も肩甲骨を回す体操などを広げていることもあって、肩甲骨という妙な共通点でも話が盛り上がっていた。
「はじめに」で著者は現在のスポーツジャーナリズムへの物足りなさをこう表現している。「アスリートの感覚の内側にまで入り込んだ言葉が少ない」と。
室伏選手との対談の中でも「インタビュアーには新しい感覚はありましたか?と質問して欲しい」と提言している。
試合後の決まりきった面白みのないインタビューにもきっと味わいが出ることだろう。
○印象的な言葉
・少しでも早くいいものを見たほうがいい。一番いい感覚を植えつける
・興奮している状態そのものを味わう自然体
・コンディションでもなんでも常に気にしておかないと、いい仕事なんてできない
・ウォーミングアップのときに最大心拍数まで上げきったら雑念・邪念が消える
・身体の合理的な動かし方、自然な動かし方を覚えたら、負担はないし、怪我をすることもない
・力に頼らない身体の使い方
・イメージが身体を動かす、頭が身体を動かす
・結局いきつくところは体幹
・型は合理的にできている。変化に適応するための基本である。応用がきく
-目次-
1 五輪の身体
・室伏広治の身体 ―日本的な身体技法を追求する
・山本博の身体 ―いまは緊張さえ楽しんでいる
・浜口京子の身体 ―必殺技は言葉です
・塚原直也の身体 ―目標は「五〇歳で日本代表」
・野村忠宏の身体 ―一本勝ちにこだわりたい
・中西真知子の身体 ―イメージが身体を動かしている
2 身体感覚の発見こそアスリートの誇りである
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