読書メモ
・「「五感力」を育てる 」
(齋藤孝、山下 柚実:著、中公新書ラクレ \720) : 2006.08.16
内容と感想:
本書は身体論を専門の一つとする齋藤氏と、五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)に関心が高く、五感に関する著書もある山下氏との対談集である。
五感力とは単なる感覚としての五感の能力(レベル)を表すのではなく、ここでは「五感を身体の動きに結びつける力、五感を統合する力」と定義している。
二人は近年の日本人の五感力の衰えを実感し、危機感を感じている。
すぐ疲れる、まっすぐ立っていられない、体温が上がらない、そういう子供が増えているそうである。
(今回初めて知った言葉だが)LD(学習障害)やADHD(注意欠陥・多動性障害)などの障害をもつ子供も増えているそうだ。
これらも五感力の発達の遅れ、機会の喪失などが原因ではないかと指摘している。
五感の中でも特に触覚は基盤となる感覚で重要視している。
それはスキンシップの減少・喪失が人間の成長にマイナスの影響を与えるとの認識からだ。
そういったスキンシップの経験の少ない人が今では親となり、子育てに苦労していると言う。
大きな要因は日本がそういう社会に歪んできていることである。その歪みが弱い子供たちに現れているようだ。
特に都市部では子供の遊び空間が干からびてしまい、身体を使った遊びが出来なくなっている。空き地すらない場合もある。
要は子供の成長のための環境整備が必要ということだが、社会全体の理解も必要だ。
大人の理論を優先して、効率を重視するあまり、子供への配慮が失われていないか、見直してみる必要があるだろう。
また子供の「五感力を育てる」ために、特に高度な専門的なことをしなくても、
簡単に家庭などですぐにも実行できる「足裏マッサージ」など10のメソッドも紹介されている。
○印象的な言葉
・自分の感覚より「情報」「価値」「流行」など社会が作り出した基準を重視するようになっている
・記号を消費するようになった日本(ブランド志向)
・親は障害のある子供と、障害を一緒に乗り越えていこうという共感をもつ
・触覚には防衛的な反応と識別的な反応がある
・新触感、新食感、新しい素材感がビジネスのテーマにもなっている
・人間は情報の8割を視覚に頼っている。見ただけで分かった気になっているのではないか?
・今の社会は記号や言語の意味を読み解くことばかりに比重を置きすぎる。まず五感を使って他人を理解する基盤を作る。
・体験、経験の多さが、いろんな状況に対応できる応用力となる
・自己肯定感、自分の一貫性、生命の持続感
・言語的な学習は学校の責任、身体に関わることは家庭の領域
・合理性の突き詰められた姿勢は美しさをもつ。効率がよく、持続できる姿勢
・息(呼吸)は心と身体を結ぶ道
-目次-
序論 いまなぜ「五感力」なのか?
ルポ 子どもたちを育てる五感の現場 ―LD/ADHDと教育のゆくえ
対論 子どもの五感力を拓く
1章 子どもの身体があぶない!
2章 “五感喪失”時代の背景を読み解く
3章 “五感力”向上作戦 ―大人たちにできること
提言 「五感力」を育てる十のメソッド
補論 腰肚文化の再生をめざして ―日本人の姿勢を手がかりに
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