読書メモ
・「ソフトウエア最前線」
(前川徹:著、アスペクト \1,800) : 2005.12.11
内容と感想:
副題に「日本の情報サービス産業界に革新をもたらす7つの真実」とある。各章がそれぞれの”真実”を述べているが、
日本のソフトウエア産業の競争力の低さ(特に輸出額)の認識のもとに、著者は本書のテーマとして、
「生産性や質の向上を阻害している要因がどこにあり、どうすれば、その阻害要因を取り除くことができるの」かを掲げた。
資源の少ない日本では「高度な教育を受けた人材が主たる資源である」し、「創意工夫と緻密さが要求されるソフトウエア開発は、日本人に適した職業である」
というもの賛成できる(というか信じたい)。
日本のソフト開発現場にも海外へのアウトソーシングの波が押し寄せており(オフショア)、日本の業界の空洞化も懸念されているが、
はては少子高齢化で人材も減少していく、そういう背景もあって、著者のいう「ゆでガエル」状態で日本のソフト産業は衰退に向かう可能性は大きいと感じる。
一番興味深かったのはソフト開発に対する教育・訓練の効果とプログラマとしての素質に関するもの。
立証するデータは少ないが、著者としては「教育や訓練によって優秀でないプログラマの生産性が許容できる水準まで向上するか」という疑問に対して、
教育・訓練によって「素質のあるプログラマは伸びるが」、そうでないプログラマには効果がない、「ほかに適性のある職業があるはずだ」と言っている(Chapter 5)。
私にも私の職場にとってもスキルアップは大きな課題だ。そもそも十分な教育・訓練も受けられていないという状況もある。
それでは教育・訓練の効果すらも測れないのだが、そういう中で日々の業務に追われ、スキルアップの機会もない、という状況では特に経験の浅い開発者には
不満だろうし、将来への不安もあるであろう。適性を見極める以前に業界から足を洗ってしまいかねない。
自分が成長・進歩していることが実感できないと、モチベーションは下がる。
話はそれたが、ソフト開発者としての適性を見極めるのは難しい。
自分には向いていないと感じれば、自分から辞めていくし、家族がいれば生活がかかっているからといった理由で仕方なく続ける場合もあるだろう。
明らかに生産性が低くても、すぐクビに出来ないのも人情だ。
どこの現場にもスター選手が居ればうまくいくかもしれないが実際はそうではない。そう考えれば如何に今ある人材で生産性を上げるかを考えなければいけない。
結局、精神論になってしまうが、人間のやることだから如何にモチベーションを高くして継続していけるかだろう。
モチベーションを保つには今ある課題を克服しようとする努力は惜しんではならないし、学び続けていかなければいけない。
Chapter 6はパッケージソフト業界の歴史・栄枯盛衰が窺えて面白かった。
印象的な言葉:
・要求定義を分離発注してはどうか ⇒ 新しい契約方法の提案(Chapter 4)
・下請け構造、人月単価が生産性の向上を阻害する
・ソフトの価値:納期、機能性、品質(ヨードン)
・ソフトウエア工場(モノの生産管理手法をソフトに適用する試み)の幻想
・ソフト開発は頭脳労働である。本の執筆に似ている
・オフショアリングにコスト削減効果だけを求めてはいけない
・CMMI認証取得そのものが目的化することがないこと(ISO9000、14000シリーズでは取得が自己目的化したとの批判があった)
・プログラマの生産性に個人差があるのは30年前から周知の事実
・優秀なプログラマを給与アップのために管理者にするのは間違っている
・プログラマに残業手当を出すのは間違っている ⇒ 給与・賞与はプロジェクトベース、チームベースにしてはどうか
・仕事にやりがいがあり、十分な報酬、ゆとりある労働時間・環境があればおのずと人材は集まる
・できるプログラマはすぐ分かる
・ソフト開発は分業するほど生産性は落ちる(情報伝達、コミュニケーション不足)⇒創造的なソフトは分業せずにごく少人数で作られた
・社会に大きな影響を与えた革命的なソフトは意外に短命
・ネットワーク効果、ロックイン効果
-目次-
Chapter 1 世界はソフトウエアに依存している
Chapter 2 このままでは日本のソフトウエアはダメになる
Chapter 3 ソフトウエア工学で問題がすべて解決するわけではない
Chapter 4 ウォーターフォール・モデルはソフトウエア開発に適していない
Chapter 5 優秀な人が優秀なソフトウエアをつくる
Chapter 6 ソフトウエアの天才は身近なところにいる
Chapter 7 ソフトウエア産業を育てるのはユーザーである
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