読書メモ
・「雪の炎」
(新田次郎:著、 \460、文春文庫) : 2003.01.29
内容と感想:
華村敏夫をリーダーとする男3女2のパーティが夏の谷川岳縦走中、天候の急変に遭遇。メンバーの一人・多旗絢子が強風で尾根から転落。華村と和泉四郎は救助のため斜面を下りた。大熊菊男と有部雅子は救援を求めるために、先へ進む。華村らは絢子を発見するが、彼女は怪我をしており、天候の回復と救助の到着を朝まで待つことにした。しかし翌朝、華村だけが疲労凍死していた。彼の妹・名菜枝に彼の死が伝えられると、妹は兄の遺体を迎えに谷川岳に向かう。しかし死んだのが兄だけだったことに疑問を持ち、真相を調べ始める。兄が所属していた山岳会の幹事の一人・高田や、名菜枝が勤めるの料亭の外人顧客ロックナーらの協力もあり情報収集が進む。産業スパイ事件にからむ兄の自殺説や、絢子の婚約者が華村との登山中に死亡したのを、華村のせいだとして絢子の恨みによる他殺説まで浮上。なかなか結論は出ないが、山で起きたことは山で決着をつけるのが一番と、名菜枝はパーティのメンバーにロックナーを加えた6人で、11月の谷川岳に登山に出掛ける。しかし、これがまた天候が悪化、雪が降り始め、避難小屋で朝を待つことになる。その小屋の中でメンバーらの口から真相が語られることとなる。
夏山とはいえ高山では装備が不十分であったり、疲労や悪天候など悪条件が重なると、この小説のように凍死することもある。ただ、山のベテランの兄がいとも簡単に死んでしまったことは、登山の経験のない妹にも不審に感じられた。直接の死因は疲労凍死と分かっていても、簡単には納得できるものではない。縦走したときのメンバーはいずれも同じ山岳会に属しているが、会は系列会社の社員から構成されていて、絢子はその内の一社の社長令嬢でもあり、メンバー間の恋愛感情も絡んだりして、最初は名菜枝の目にもより複雑に見えた。
新田作品の中では今までに読んだことのなかったミステリー小説に仕上がっている。勿論、山に関する描写については言うことはない。
更新日: 03/01/29
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