読書メモ

・「逆説の日本史5 中世動乱編
(井沢元彦:著、 \600、小学館文庫) : 2003.03.23

内容と感想:
 
シリーズ「逆説の日本史」の文庫版の第5巻。
 キーワードは第4巻と同様、やはり「穢れ」、「怨霊」、「言霊」なのだが(といっても、あちこちに執拗に登場するわけではない。少しでも気になる人には気になるかも知れないが)、これに新しい言葉が加わる。「自然」である。英語のnaturalではなくて、「ごく自然に」とかとも、ちょっとニュアンスが異なる。著者はこれを「納得」と置き換えている。「皆が納得する状態」が自然であり、「不自然でないもの」が自然だと。執権・北条泰時のブレーン、華厳宗の僧・明恵(みょうえ)はこれを「あるべきよう」と言い、当時の人は「道理」ともいった。ここに日本人の本質を見るような気がするのは著者や私だけではないだろう。
 本巻でカバーする時代は以下の目次にあるようなトピックが登場する武家政治が始まった時代。12世紀後半〜13世紀前半頃のことである。”平安”とはいうが矛盾や不満が蓄積していった平安時代が終りを告げる。

第一章 源頼朝と北条一族編 
第二章 源義経と奥州藤原氏編
第三章 執権北条一族の陰謀編
第四章 悲劇の将軍たち編
第五章 北条泰時と御成敗式目編

 本書で知ったのは、これまでの私の歴史教科書的理解では頼朝ら源氏が清盛ら平氏を打倒し、本格的な武士政権(武士による、武士のための政治)を始めたことになっていたが、実際は源平合戦のような単純なものではなかったということ。また、その政権交代は奇跡的なものではあったが、後の関ヶ原合戦のような大規模な軍事衝突から比べれば幼稚なものだったのだという感想。平氏も武士ではあったが、政治手法はそれまでの藤原氏と変わりなく武家政権と呼べるものではなかった。その平氏に対して、未開の土地を開拓した全国の農民や武装農民(武士の始まり)の不満が爆発し、政権打倒ということに発展したようだ。
 日本史のアイドル・義経は戦術の天才ではあったが、戦略を理解できなかったため、平家打倒後、兄・頼朝から遠ざけられ、不幸な運命を辿ることになった。

更新日: 03/03/29