読書メモ
・「現代イスラムの潮流」
宮田律:著、 \660、集英社新書 : 2002.02.04
内容と感想:
目次
第一章:イスラムとは何か
第二章:イスラムの宗派と、民族の融和と抗争
第三章:成長する[イスラム原理主義]とは何か
第四章:パレスチナ問題 - イスラムと異教徒との最大の紛争
第五章:現代の[ジハード]をスケッチする
第六章:イスラムとの共存・共生を考える
著者はイスラム地域研究、国際関係論が専攻の大学の先生。
本書は昨年(2001年)9月のアメリカで起きた同時多発テロよりも前に書かれたもので、今読むと、今更ながらにあの事件が突発的な事件ではなく、それなりの歴史的な経緯があって起きるべくして起きてしまったと感じざるを得ない。ビン・ラディンの名前もしっかり書かれていて、どきりとする。
テロの可能性を示唆するような警告とも言える表現も見られる。「アメリカに求められているのは、急進的なイスラム組織のテロの対象になっている原因についての自省的な姿勢だろう。(中略)それがない限りアメリカが急進的イスラム勢力のテロの対象となり続ける可能性は高いだろう」
そのテロがなかったとしても、日本でもNHKで特集が組まれるほど近年のイスラム社会への注目度は高い。湾岸戦争のときも、今回のアフガンでの対テロ戦争でも聞かれた、イスラム側の”ジハード”という言葉は、イスラム社会と西欧文明との衝突をいやがおうにも象徴的に表すが、短絡的にイスラム社会が好戦的な人々ばかりだと思ってはいけない。
イスラムといっても一枚岩ではなく、テロを起こすような連中は原理主義者などのごく一部の過激組織でしかない。
本書を読むとアメリカがアフガンを対テロ戦争の標的にした本当の理由は、ビン・ラディンを保護するタリバーン掃討はあくまでも表向きの理由であって、カスピ海の石油パイプライン構想に障害となるタリバーン政権排除というアメリカの国益を重視したものが透けて見えてくる。
先ほど、東京ではアフガン復興支援会議が開かれ、タリバーン後のアフガン復興が議論されたようだが、復興はまだ始まったばかり(いまだ武装勢力間で小競り合いが散発しているのが気がかりだが)。
私のもつイスラムのイメージとしては、一日に何度も礼拝を欠かさない敬虔な信者が多いという点。かつて「マルコムX」という映画で、イスラム教に入信し、信仰を基にアメリカの黒人社会で政治的な活動をした実在の人物を知った。この映画が象徴するように、近年ではアメリカ国内でもイスラム人口が増えているという。改宗する者もあると聞くから、イスラムにはその教義に魅力を感じさせる力があるのかも知れない。
若年層の増加と失業率の増大、貧富の差の拡大、などがイスラム社会では顕著であり、その不満をイスラム教が吸収する部分もあれば、一方で過激な思想に傾く原因にもなっているという。
これは他人に言われるまでもないが、文化も風習も異なる民族が同じ地球上で暮らしていくには、互いに理解を深め、互いを認め合い、妥協点を探っていくしかない。イスラムと他の宗教や文明との間に限ったことではない。
さて現在、パレスチナ問題はこれまでの多くの人の努力にも関わらず、ますます悪化し、すっかり暗礁に乗り上げた格好。自爆テロと報復が続き、予断を許さない。
また、アメリカは次なる対テロ戦争の標的にフィリピンのイスラム過激組織アブサヤフを据えているとか。アメリカは前面には出ては来ないだろうとは言われているが、武力による解決が最良ではないことは子供でも知っている。冷戦後、唯一の超大国となったアメリカ。いつまでも独善的な姿勢をとるようであれば、アルカイダでなくても反発は必至だろう。奢る平家は久しからず、である。
更新日: 02/02/05
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