読書メモ

・「声を出して覚える般若心経
(大栗道榮:著、 \1,200、中経出版) : 2002.11.09

内容と感想:
 
「般若心経」(はんにゃしんぎょう)とは仏教経典で、その原典は600巻にものぼる「大般若経」である。そのエッセンスをたった262文字にまとめたものが般若心経である。日本では多くの宗派で読誦され写経されているそうである。
 本書にはその読経を収録したCDと、ルビが振られたお経本文と写経用手本が付録として付けてある。
 そもそも本書に興味を持ったのは新聞広告であった。「x万部突破」とかいった景気のよい見出しに、まんまと目を引かれたのも確かだが、何よりも日頃余り耳にすることのないお経を収録しているらしい付録CDに興味があった。我々にはお経なんぞは、法事や葬式以外には滅多に聞こえてくるものではない。その滅多にお耳にかかれないお経が語っているものは一体なんなのか?法事の席で僧侶が読経するお経がこの般若心経かどうかは知らないが、単なるBGMに留めておいてはお釈迦様に失礼かと・・。
 早速、付録CDを聞いてみる。BGMにするには確かに物足りない。そもそもそんな用途に作られたものではないが。残念なのはたった漢字で262文字のお経だが、それを3度繰り返し読経した音声が収録されているだけということ(約6分)。どうせCDにするならもう少し工夫があってもよかったか?本書と同様の内容とCD付きという本が他にも書店に並んでいる。そちらの方は立ち読みした程度だが、日本語(?)だけでなく、チベット語か何かのバージョンや、癒しを意識したBGM付きのようなものが収録されていた(こちらのほうが高かったから買わなかった)。しかしこの試み、”コンテンツ”としては一風変わっていて面白いと思う。私が知らないだけで、実は世間にはこの手のCDやテープなんかが広く流通しているのかも知れないが。そういえば以前、僧侶たちによる読経が合唱のような効果を見せるのをTVで見た覚えがあるなー。単なる棒読みではなく、節(メロディ?)が付いているから音楽的効果が現れるのだろう。これを面白いと感じたのは、どうやら私だけではないんだなと、その企画を見て感じた記憶がある。
 本書では般若心経に書かれた全ての内容を一字一句と取り上げて丁寧に解説を加え、その有難い教えを分かりやすく説いている。この解説がなければ般若心経を聞いただけ、漢字の羅列を見ただけでは理解不能である(読んでいくうちにお坊さんの説教を聞いている気分になります)。
 しかし本を読んで分かったつもりでも、すぐに幸福な人生になるかどうかは本人の心がけ次第のようだ。著者が序文に弘法大師の言葉を引用しているように、「朝夕にこれを読み、唱え、深く考えて日々に実践すれば、生まれながらの煩悩を除くことができる」そうである。頭で理解しただけでは幸福にはなれない。実践が伴わなければ。その実践(般若波羅蜜多行、または六波羅蜜行、菩薩行)が般若心経の目的だという。この意味で般若心経は幸せな生活のための指導書である。
 たった262文字ではあるが、そこに聞き慣れない単語が並んでいるとしても、短いがために覚えやすく独特の節回しもあり、僧侶のみならず広く民衆にも暗誦してもらえるだろう、という(般若心経の)作者(といってもどなたかは知らないが)の布教のための戦略が感じられる。

更新日: 02/11/09