読書メモ  

・「山の社会学
(菊地俊朗・著、 \710、文春文庫) : 2001.07.07

内容と感想:
 
中高年の登山ブームといわれて久しい。ブームはブームでなくなり、登山自体は一般的なレジャーの一つとして、すっかり認知されたと思われる。
 著者は記者という立場からも長く山と関わってこられた方で、本書は今では巷に溢れるようになったコースガイドやハウツー物のようなもとのは、異なる性格の書である。登山ブームによって年々顕在化する問題点などを取り上げ、そこに現代日本社会の縮図を見出している。
 タイトルの「社会学」というほど堅苦しい内容ではない。著者ならではの取材により、登山の舞台裏が明らかにされていて興味深い。
 著者が指摘するように、今日の登山ブームは、登山を取り巻く環境の進歩によるところが大きい。”深田久弥氏の百名山”を目指す巡礼登山の影響が大であることは明白だが、登山口までのアプローチの良さの向上、およびコンビニの展開力が後押ししている。これは私もいつも実感させられる。一介のサラリーマンである私でも、思い立ったときに関東からでも、週末にふらっと名山へ出かけて行けるほど手軽になりつつある。

内容が想像できるよう目次を挙げておく。
 第一章:山小屋について
 第二章:百名山登山をめぐって
 第三章:登山者層について
 第四章:登山道について
 第五章:電源開発と林道について
 第六章:山の環境保全について
 第七章:もう一つの登山の楽しみ

 どんな事でも舞台裏を知るのは、楽しみが増えてよいもの。
 最後の章が著者の個人的な思い入れで書かれているのはご愛嬌。
 道路や登山道、山小屋の充実と、その裏にある関係者のご苦労や知られざる実情が最も興味深かった。道路や登山道、山小屋が整備されていくのは我々、愛好家には大歓迎。しかし過剰な開発には環境破壊や景観阻害が懸念される。それに、余りにも楽に登頂できてしまうと、時間をかけて登頂する経過の楽しみが奪われてしまう。実際、かつて登ったことのある百名山と言われる山の中にも、そういうがっかりさせられた山が存在する。過ぎたるは何とやらである。
 登山をめぐる環境について考えさせられる一冊。

更新日: 01/07/07