読書メモ  

・「おごそかな渇き
(山本周五郎・著、 \590、新潮文庫) : 2001.07.24

内容と感想:
 
映画「雨あがる」をTVで見た後、原作を読みたくなって購入。短編なので、どの本に収録されているかを探すのに少し苦労した。

「現代小説」
おごそかな渇き ... 氏の絶筆となった作品。この短編集唯一の現代小説。舞台は戦後間もない北陸の寒村(私の田舎にも近い地です)。東京から移住してきたクリスチャンの父娘。父は近々、後妻をもらってブラジルへ移民として向かうという。そんな父娘に救われた青年教師。

「下町もの」
かあちゃん ... 突然けちになった家族。これには投獄中の男が娑婆に出た後に、すぐ仕事を始められるようにお金を貯めんがための強い家族の絆があった。その家が金を貯め込んでいると知って、ある夜、男が侵入。しかし、かあちゃんは騒ぎもせず、金はもっていけばいいと言う。男は彼女の話に心打たれ、家族同様暮らすことに。

将監さまの細みち ... 好いた者同士が結ばれない悲話。臆病で病気がちな夫に不満。他人に知られないよう岡場所で働く。昔好きだった男が一緒になろうと。が、心を入れ替えて働くという夫の言葉に・・。

鶴は帰りぬ ... これも好いた者同士が結ばれない悲話。無口な男。一目合ったその日に結ばれた二人は結婚を誓うが。愚図愚図している内に、女は大家の後妻に入ることを決めてしまう。

「武家もの」
紅梅月毛 ... 桑名城主・本多忠勝の家臣・深谷半之丞と名馬。秀忠の将軍就任の祝宴で行われる競(くら)べ馬。しかし半之丞が本番に乗った馬はみすぼらしい老馬。関が原の合戦の際、行方不明となった馬との再会。

野分 ... これも好いた者同士が結ばれない悲話。大名の庶子として生まれた武士、又三郎。しがらみを嫌い武士を捨て、庶民になりたいと望む。植木職人の祖父・藤七と二人で暮らす娘・お紋。又三郎の実父との再会、継嗣となる。突然の別れ。娘の居所を知り、駆けつけるが既に旅立ったあと。

蕭々十三年 ... 岡崎城主・水野忠善への奉公の熱心さの余り、遠ざけられた家臣・天野半九郎。。その理由を直接聞いた彼は、その13年後、城の火事の際、焔硝蔵を身を呈して守った。忠義心。

「こっけいもの」
雨あがる ...
黒沢明の死後、残された彼の手による脚本をもとに、黒沢組の手によって映画化された。
多少、登場人物や筋立てに相違があるが、映画では原作のもつ雰囲気がしっかり伝わって来ていた。

「メルヘン調」
あだこ ... 許嫁が別の男と結婚してから自堕落な日々を送る武士。そこに”あだこ”と名乗る田舎娘が現れ、彼の身の回りの世話を始める。彼女を疑いの目で見るだけで、以前と何も変わらぬ生活を続けてきたが、あることがきっかけで自分が大変な過ちを犯していたことに気づく。

もののけ ... 因幡の国に”もののけ”が出るということで、検非違使の一行が退治にやってくる。それまでに退治に来た者は皆、なぜか「ここで死んで極楽だ」と言って骨と皮だけの死骸となったという。しかしその”もののけ”が退治される日が来る。その正体とは・・。宮崎駿映画「もののけ姫」とは全然関係ないが共通点も感じられる。

<メモ>
 この手の小説を読むのは初めてである。勿論、氏の作品も。解説で引用されている氏の言葉にあるように、この短編集は「古風な義理人情」を描いたものばかりである。この手のものには全く触れたことがなかった自分としては新鮮に感じたのだが、解説にもあるようにこの短編集が書かれた頃は、「古風な義理人情」とはどちらかというと否定的な批判として用いられていたようだ。
 氏は”泣かせる小説”は造作なく書ける、と言う。そのとおり何度泣かされたことか(涙までは流さなかったが、ぐっと胸が詰まるというか・・)。滅多に小説で泣くようなことはないが、氏は根っから人の涙腺を刺激するツボを心得ていたらしい。といっても”お涙頂戴”的なわざとらしさがないのだ。

更新日: 01/07/25