読書メモ
・「文明の衝突と21世紀の日本」
(Samuel P. Huntington 著、鈴木主税・訳、 \660、集英社新書) : 2001.09.23
内容と感想:
日本では1998年に訳書が発売された大著「文明の衝突」(原題:The clash of civilizations and the
remaking of world order)は、購入後、そのまま”積ん読”状態。余裕のあるときにじっくり読もうと思っているうちに今日に至っているが、そうしているうちにアメリカで同時多発テロが起きてしまった。仕事から戻ってTVニュースで見た映像は衝撃的であった。すぐにテロの首謀者はイスラム原理主義指導者ウサマ・ビン・ラディンだということになった。イスラム勢力の中でも過激なグループのリーダーと目されている。
この事件は起こるべくして起こったと言える。ちゃんと伏線がある。毎年のように世界各地でイスラム過激派の対米テロが続き、ここに来て一気に爆発したように見える。
ブッシュ大統領はこれを称して「21世紀型の新しい戦争」と言ったらしいが、10年前の湾岸戦争と異なり、もし戦争を始めるのだとしたら今回は見えない敵が相手になる。テロリスト、山岳ゲリラを相手に戦争なんて出来るのだろうか?疑問である。またアメリカは一部の過激集団を叩くために、他のイスラム勢力の対テロリズム陣営への引き込みに必死であるが、ちょっとしたことで彼らを敵に回しかねない。そのようなことになれば、世界戦争に発展しかねない危うさをはらんでいる。大統領は「この戦いの敵はイスラムではなく、テロリズムだ」と強調するが、テロリストたちでなくても各地で反米感情があるのは否定できないのが現実だ。
そんなとき、すぐに頭に浮かんだのが本著の元になった「文明の衝突」であった。まさにこれは西欧文明とイスラム文明の衝突の結果、起きた現象ではないかと。「文明の衝突」でHuntington氏は、この事件を予言するようなことをきっと記しているのでは、と好奇な気持ちにもなった。「文明の衝突」の後に記された新書版の本著の存在を店頭で前々から知ってはいたが、「文明の衝突」を読む前にこちらを読むことになってしまった。やはりテロ事件がきっかけだ。読まずにはいられなくなったのだ。
このまま戦争好きの米国に日本も引きずられて行くのだろうか?それはごめんだ。NYでは日本人の犠牲者も大勢おり被害国の一つではあるが、報復は報復を生むだけだ。次は東京が狙われても不思議ではない。日本は米国の同盟国なのだから。いったい日本はどうするべきなのであろう?
この事件をHuntington氏はどう見ているのだろうか。恐れていたことが起きてしまったと思っていることであろう。
著者は「西欧文明を普遍と思い込んで世界に押し付けてはならない」、「世界の安全を守るには世界の多文化性を認めなければならない」と言う。西欧文明に感化されてはいるとはいえ、西欧世界の外の我々から見れば当たり前のようなことだが、特に唯一の超大国となったアメリカは自覚が足りないらしい。ますますその独善的な態度が鼻につくようになっている。
さて、本書の題にもある”21世紀の日本”はどうすべきだと書いているのだろうか。氏は主要な文明の分類として”日本文明”をそれらの一つとして定義している。そして国際政治のパワー構造分析によるとアメリカを唯一の極とし、日本は東アジアという一地域の(地域大国・中国に次ぐ)ナンバー2と位置付けている(潜在的には地域大国であるとも)。
改革・開放路線で台頭してきた大国・中国はアメリカにとっても脅威と映っているようだ。将来、東アジアの覇権を望むようなことになれば(すでに突き進んでいる?)、隣国・日本は微妙なバランス感覚を要求されるだろう。氏は「もしアメリカが超大国の地位を失うようなことになれば、日本は中国と手を結ぶこともありえる」と書いている。ただ、日本と中国の間にある大東亜戦争以来の深い溝が埋まらない状況では、すぐにとは行かないだろうが。あいかわらず終戦記念日になると靖国参拝問題、また今年は教科書問題と、日本とアジアの国々との間の過去の和解は遅々として進まず。時間が解決すると、清算を先延ばしにする悪い習性を改めない限り、いつまでも世界からも尊敬されない日本のままだ。ますます東アジアでも顔の見えない、存在感なしの日本となる。ジャパン・パッシングで一番困るのは日本自身である。
今回のテロに対するアメリカを初め世界各国の対応は予断を許さない状況である。日本でも小泉総理のリーダーシップでいち早く態度を表明してはいるが、国会には事後承認だけで自衛隊派遣をとの声がある。恐るべきは憲法無視の、なし崩し的な”軍隊”としての武力支援が行われないとも言えない状況になってきたことだ。小泉人気は異常だが、国民としてこの動きはしっかり監視していかねばならない。
更新日: 01/09/23
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