読書メモ  

・人物文庫「悲運の知将 −佐々成政」(遠藤和子・著 \700、学陽書房)

  昔は将軍や戦国大名といった組織のトップを題材にしたフィクションやノンフィクションがほとんどであったが、最近は補佐役や一家臣を取り上げるものも増えた。

  成政の名は織田信長を知ってから信長関連の本を読み始めた時にすぐに覚えたから、相当昔の話だ。私のイメージでは織田信長株式会社の創成期からの勇猛な武将としてある。しかし、それほどの印象的なエピソードというのは記憶にない。
  また、昔から好きなコーエー(元・光栄)のシミュレーション・ゲーム「信長の野望」シリーズ(今でもやってる)に登場する彼は、特技や能力でいうと”鉄砲のレベルが高い”、そのぐらいのイメージであった。

きっかけ:
  たまたま古本屋で見つけたことであるが(発行は今年の2月)、その中で少し前から彼に関するエピソードで気になっていたことの記述があったからだ。
  昨年から山登りにはまり出し、この夏は、北アルプス・剣岳に登った。その下調べで買った登山ガイドに佐々成政の「さらさら越え」のことにほんの少しふれられていたのだ。どうやら民謡にもなっているらしい。
  まさか、厳冬の北アルプス、それも立山、後立山連峰を越えたとはとても納得できなかった。そのときは単なる伝説だろうくらいに理解した。
しかし、どうだろう。この本では「さらさら越え」の可能性を文献や立山周辺の地元の人の話し、現地の取材などを通して、真実である可能性を説いているのである。

さらさら越え:
  冬は猟師の活動期であり、雪の立山一帯を駆け回っていたという。十分な装備や天候を選べば、かえって冬のほうが(雪の上のほうが)活動しやすいらしい。また、昔から立山から、信濃大町へ抜けるルートは存在していたらしく、今の黒部・立山アルペンルートとはまったく同じではないが、似たような道があったのだ。
  目から鱗とはこのことだ。そんな馬鹿なと思っていたことが、不可能ではないと分かったのである。なるほどと言わせるほどの説得力があった。

構成:
  この本ではその他にも、数章に分けて彼にまつわる逸話や伝説を解き明かしているが、私の興味は「さらさら越え」だけにあったから、失礼ながら「小百合伝説」のようなたぐいの話は読む気がしなかった。

(1999.11.18)