誤解





その日は突然やってきた。

「利吉さん・・・もう私に会いに来ないで。」

「・・・・。」

利吉は驚きのあまり何も言えず只走り去る乱太郎の背中を呆然と見送った。



―――――ドタドタドタ・・・バッシン



「利吉もっと大人しく入ってこん・・・っぐえぇ・・」

「父上ぇ・・・どういう事なんですか!!!!」

利吉は伝蔵の首を絞めつつ前後に振った。

「・・・ええぇぇ〜い・・離さんか苦しい。」

伝蔵は利吉を跳ね除けた。

跳ね除けられた利吉はすべての不幸を背負い込んだ様な顔をしていた。

「・・・どうしたというんだ一体。」

「実は・・・。」

利吉は事の成り行きを伝蔵に話した。

「そうか・・・残念だったな利吉。」

伝蔵の言葉に利吉はすごい顔で睨んだ。

「そんな恐い顔するな・・・冗談だ。」

「笑えませんね。」

「しょうがないのう。私がそれとなく理由を聞いてくるから待っていろ。」

伝蔵は情けない息子を後に部屋を出た。









伝蔵は裏庭でぼんやりと座っている乱太郎を見つけその隣に腰を下ろした。

「利吉に“もう会いに来ないで”と言ったそうじゃないか。」

乱太郎は少し辛そうに笑った。

「何が遭った?」

伝蔵は乱太郎の頭をポンポンと叩いて話を促した。

乱太郎は下を向いたまま少しずつ話だした。

「昨日くノ一たちの話を聞いてしまったんです。」



―――くノ一たちの会話―――

「利吉さんってやっぱりかっこいいわよね。」

「そうよねぇ〜。やっぱり言い寄ってくる女の人とか多いんでしょうね。」

「そういえばさぁ。この前町ですんごい可愛いくて綺麗な人と歩いてたわ。」

「え〜本当に?」

「すごく楽しそうだったしその人を見る利吉さんすごく優しい目だったの。」

「恋人なのかしら。」

「利吉さんの片思いかもよ。」

「どっちにしろ大切な人なんでしょうね。」

「あ〜あどっかにいい男いないかな〜。」

―――くノ一たちの会話終了―――



乱太郎は少し涙声になっていた。

「私に言ってくれてた言葉も嘘だったんだ・・・って思って。」

「だからか?」

「だっておかしいですよ。そんな人がいるのに私に会いに来るなんて・・・。」

『おかしい?・・・そうおかしい。あいつはどうみても乱太郎以外見えてないぞ。』

「利吉には聞いたのか?」

乱太郎は顔を横に振った。

「・・・利吉さんから“もう会いに来ない”なんて言われたら私・・・ぐずぅ。」

乱太郎は伝蔵の胸に顔を埋め堪らず泣き出してしまった。

伝蔵は優しく背中をさすった。

『・・・そういえば・・・』

伝蔵がふと数日前のことを思い出した瞬間 ものすごい殺気が近づいて来た。

『・・・やれやれ。』

伝蔵は深い溜息をつきその殺気を漂わせている人物の名を呼んだ。

「待っていろと言っただろう利吉。」

その名を聞いた瞬間 乱太郎の身体が強張った。

「何をしているのですか・・・父上。」

「利吉・・・お前乱太郎以外に大切な人がいるのか?」

利吉の問いに答えず伝蔵は厳しい顔で逆に問うた。

「何馬鹿なことを言ってるんですか。そんなのいるわけがない。」

「お前この間可愛いくて綺麗な人と仲よさそうに歩いていたそうじゃないか。」

乱太郎はいまだ伝蔵の胸に顔を埋めている。

利吉は少し考え照れるように言った。

「確かに可愛いくて綺麗でしたね。」

伝蔵は乱太郎を自分の胸から剥がしにっこりと笑った。

「だそうだ乱太郎。良かったな・・・だいぶ女装が上手くなった。」

伝蔵の言葉に乱太郎は首を傾げた。

伝蔵は乱太郎と共に立ち上がり“ポンッ”っと利吉の方に向かって乱太郎の背中を押した。

利吉は自分の方に寄って来た乱太郎を力一杯抱き締めた。

呆然としている乱太郎に伝蔵は笑った。

「すべては乱太郎の誤解だ。」

「誤解?」

「そう・・・まだ思い出さんか。数日前・・・」



―――数日前―――

その日は女装の試験があった。

乱太郎はいつもより上手く女装出来たのでそのまま町に出たのである。

その時 たまたま乱太郎は利吉に会ったのだ。

「どうしたんだ乱太郎。その格好は?」

「利吉さんだぁ〜。」

「誰かに連れ去られでもしたらどうする。」『女装してなくても心配なのに。』

「利吉さんに?」

「そうだな・・・連れ去るのもいいがこのまま押し倒したいな。」

「此処じゃ嫌ですよ。」

乱太郎が利吉と学園に戻った時には女装は解かれていたとか。

―――回想終了―――



「・・・あっ。」

乱太郎は薄っすらと頬を染めた。

「そういう事だ。利吉・・・私の可愛い教え子を泣かすなよ。」

伝蔵は乱太郎の頭を撫でて利吉の頭を軽く小突いた。

そして笑いながらその場から去って行った。



残された二人は暫しの沈黙



先に口を開いたのは乱太郎だった。

「ごめんなさい・・・。」

利吉の背中に腕を回しギュウっと抱き締めた。

利吉は乱太郎の顔を自分に向かせ乱太郎の前髪をかき上げ額に唇を落とした。

「誤解でよかった・・・かなりきつかったぞ。」

「ごめんなさい。」

「もうあんな言葉は聞きたくないからな。」

「私も言いたくない。」

乱太郎が潤んだ瞳で利吉を見つめると利吉はそっと零れそうな涙を舐め取った。

そして軽く触れあうだけの口付け。



乱太郎は利吉の胸に顔を摺り寄せクスクスと笑った。

「私・・・自分に誤解してたんだ・・・。」

乱太郎の言葉に利吉が笑う。

「女装の乱太郎も良いがやはりこちらの乱太郎の方がもっと良いな。」

そして利吉は乱太郎の耳元でそっと囁く。

「絶対離さないからな。」

その言葉に乱太郎は大きく頷いた。







その様子を遠くから見ていた伝蔵の一言

「うちの息子たちは本当に世話が焼けるのう。」





終了



.。夢読を我慢。のモーント・リヒト様から完全棚ぼた式の賜り物です。にやーり♪

お題は「女装乱ちゃんと利吉さん。山田先生も絡んで。」でした。

うあ〜もう!山田先生がかっこよくってですね!!利吉がちょっと情けなくってですね!

それでね!それでね!(←以下夢見がちトーク2時間)

ああ…リクできてホントに良かった…。リヒトさんほんとにありがとうございました v v


→忍玉info