夏の欠片 | |
夏休みももう終わりである。楽しかったけれど、留守番のような毎日は少し退屈でも有った。忙しい利吉も、お盆休みは確り取ったので、その分、残業続きである。もっとも、休みを取っても取らなくても残業は有るのだから、休んだ方が得である。それで、お盆休み以後の土曜は、洩れなく休日出勤になったので乱太郎の不満は募った。 普段ならどうという事は無いのだが、今は夏休みで家にずっと居る分、利吉の居ない事が寂しいのだ。 「明日はお休み?」 金曜の夜、ベッドに入ってから乱太郎が聞いた。利吉は少し困った顔で乱太郎を見た。少し拗ねている顔は堪らなく可愛らしく、利吉の憐れを誘うのだが、言わなければならない答えは決まっている。 「ごめん。でも、日曜日はお休みだから、何処かに行こうか」 「…うん」 乱太郎はがっくりと俯いて、小さく答えた。本当は、土曜日にお出掛けをして、日曜日には二人でゆっくりしたいのだ。それなのに、日曜日しか休みがないとお出掛けかゆっくりか、どちらかしか出来ない。そんな事は何時もと同じはずなのに、利吉がちゃんと休めるだけで嬉しかったのに、『夏休みなのに…』と思うと、凄く寂しくなってしまうのだ。 「お仕事じゃ、仕方ないですもんね。日曜日、楽しみにしてます」 にこっと笑って言う乱太郎が、愛しくて堪らなくなる。 「ごめんよ」 「ううん。良いんです」 そう言った乱太郎をぎゅっと抱き締めて、利吉は優しく口付けた。 今日が八月最後の土日になる事に気が付いたのは、会社に行ってからだった。 「あっ」 仕事の為に立ち上げたパソコンのカレンダーを見て、その事に気が付いたのだ。だから、乱太郎はあんなに寂しそうだったのだ、と、利吉は小さく息を付いた。夏休み最後の土日なのだから、楽しく過ごしたいと思うのは当たり前の事だ。時計をちらと見て、時間が早いことを確かめると、利吉は会社の近くになにか楽しく遊べるようなものはないかと探し始めた。仕事中の私的ネット利用は禁止されているが、休日出勤なので良しとする。基本的にオフィス街なのでなかなか見つからなかったが、やっと幾つか見つかった。施設の規模は小さいけれど、なかなか楽しめそうなものばかりだ。利吉は少しばかり迷ってから、その中の一つに決めると、確認の為の電話をその施設に入れた。 掃除と洗濯をして、朝顔の観察日記も付けてしまうと、乱太郎はすることが無くなってしまった。テレビも面白くないし、普段は出来ないゲームも、休みの間ずっとやっていたので飽きてしまった。 「詰まんないなぁ」 ぽつんと呟く。利吉と一緒なら、それだけで楽しいのに。そう思った瞬間、逢いたくて堪らなくなる。その時、電話が鳴った。 「はい」 『乱太郎?』 「あ、利吉さんvどうしたんですか」 カエルコール以外の電話は珍しい。電話越しに聞こえる利吉に声に、乱太郎は嬉しくなる。 『うん。忘れ物を届けて欲しいんだけど、大丈夫かな』 「はい」 利吉の言葉に頷いて、乱太郎はメモを取り始めた。 利吉の会社にはまだ行った事が無いので、乱太郎はドキドキしていた。言われた封筒を確りと握って駅の改札を出ると、利吉が待っていた。その利吉を見て、乱太郎は少し赤くなる。利吉のスーツ姿は見慣れているけれど、こうして、昼間の仕事中に逢うと、何時もと違う人のような気がして乱太郎の胸はきゅん、と苦しくなった。 「ありがとう。助かったよ」 「良かったですね」 そう言って乱太郎から封筒を受け取る。本当は忘れ物などしていなかったのだが、ただ、乱太郎を呼び出すよりも、びっくりさせたかったのだ。 一瞬重なった手に、乱太郎は切なくなる。封筒を渡したら、もう帰らなくてはならない。せっかく逢えたのに、と思うと、切なくて淋しい。 そっと手を繋ぎながら、乱太郎を見ると、少し俯いている。 「時間は大丈夫かな?何か予定は有る?」 そう聞かれて、乱太郎はぱっと顔を輝かせた。改札を出た直ぐ側に喫茶店が見えたので、お茶を飲むのだと思ったのだ。 「ううん、何もないです」 「そっか。じゃぁ、少し付き合ってもらおうかな」 にこっと笑って言った乱太郎に、利吉も笑って頷いた。 けれど、利吉は乱太郎の手を引くと、喫茶店の前を素通りして駅から出た。会社に行くのとは反対の方に行く。地図はしっかり頭の中に入れてきたから、迷う事は無かった。知らない道をどんどん歩いていく利吉に、乱太郎は聞いた。 「何処に行くんですか?」 「さぁ、着いてからのお楽しみ、かな」 驚いている乱太郎に、利吉は悪戯っぽく笑って見せた。 さほど大きくないビルに入り、エスカレーターで地下に下りる。着いたのは、プラネタリウムだった。小さなカウンターで利吉がチケットを買ってくると、部屋の入り口の案内嬢がもう直ぐ始まります、と言った。 「ああ、丁度良かった」 手を繋いで薄暗い室内に入ると、シートはがらがらだった。客はやはり二人連れか、もしくは一人で、それぞれが離れて座っている。利吉達も他の客に倣って、離れた所に座った。シートに身体を伸ばしながら、利吉が小さな声で言った。 「最近出来たらしいんだ。オフィス街だったからこういう場所って無いかと思ってたんだけど、駅のこっち側にはいろいろ有るみたいなんだ」 「どうして…?」 乱太郎が、やっと聞いた。忘れ物を届けてお茶を飲むだけだと思っていたのに、思いがけなくこんな風に連れ出されて。嬉しい不意打ちに乱太郎は上手く考えがまとまらない。そんな乱太郎に、利吉は少し笑って繋いだ手に少し力を込めた。 「乱太郎とデートしたかったんだ」 「でも、お仕事…」 その時、開演のアナウンスが入り、室内が暗くなる。利吉がそっとシートを倒し、乱太郎の肩を抱いた。 「うん。これが終わって、お昼を食べたら戻るよ。だから今夜は遅くなるけどね」 耳元で聞こえる少し低い利吉の声に、胸が苦しくなる。嬉しくて、切なくて、胸が苦しくなる位に利吉が好きだと思う。 「利吉さん、大好き。ありがとう」 乱太郎は小さく囁いて、利吉の頬にそっと口唇を押し付けた。 |
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TEXT:利太郎様 【利】 4500hit記念も兼ねての差し入れです。 うさみみちゃんは働き者ですねぇ。 見習わなきゃですよ。 修羅場ちゅうなのに。 宿題もまだやっていないのに。 こんな事してる場合じゃないのに。 でも、ずーっと気に成っていたので やっちゃってスッキリしましたvv やっぱり、利v乱は良いなぁvv 【犬】 利太様。そんな状況でのりのりでしたね。この夏。 直接会社には来させず駅までちゃんと迎えに行く利吉さんが良いよね。 会社は危険がいっぱいだもの!(笑) デートはきっと夏の間に夜2人で火星を見てそれでプラネタリウムになったのかな。 とかいろいろ妄想しちゃいます。(脳内幸福度急上昇中) 利v乱は良いですねえ…v ←玉 |