☆ うさみみずきん ☆






 
昔昔、ある所に、ちょっと変わったうさみみの頭巾を被った、乱太郎という子が居りました。鳶色の眸と、赤い髪、白い肌の飛び切りの可愛いちゃんです。
うさみみちゃんは貧しい農家の生まれでしたが、愛らしい容姿と、素直な性格から村人にとても愛されていました。



 そんなある日、乱太郎はお使いを頼まれました。森の中に住んでいる山田伝蔵と言うおじさんの所へ、ポテトチップとお饅頭、山菜おこわとお酒、手打ちの生蕎麦、ひげそり用の剃刀、等をもって行くのです。おじさんは乱太郎の父親の恩人だそうで、普段は『単身赴任』とかで余り家には居ないのですが、久し振りに戻っているのだそうです。
「良いかい、決して人の歩く道を外れたり、寄り道をしてはいけないよ。森には怖い狼が居るんだからね」
お母ちゃんの言葉に乱太郎は素直に頷きました。
「はぁい。行って来まーす」
そうして、乱太郎は大きな風呂敷き包みを持って、森に住むおじさんの所へ出かけたのでした。



 うさみみちゃんが森へお使いに行ったという事は、直ぐに村に伝わりました。村は大騒ぎになりました。何故なら、狼を退治するべき狩人が、居ないからです。いえ、本当は、森の家に戻ってきた山田伝蔵が、狩人となる筈だったのですが、契約は来月からです。そして、今までの狩人は、勤勉だった為に、退職前に溜め込んだ有給を消化しなくてはならず、村人が無理無理、温泉旅行に旅立たせてしまったのでした。森に居るのは、先週赴任してきたばかりの森林管理人の小松田秀作という人だけです。のほほんとした彼が当てになるかどうかは分からず、村人たちは取る物も取り合えず、うさみみちゃんを守りに行こうという事になりました。有志を募ったところ、足の悪い老人と、うさみみちゃんより年下の子供以外の男が、全員行く事になってしまいました。各各がそれぞれ得意の獲物を手に、意気込んで出発です。何しろ狼は手癖足癖が悪く、美味しそうな物は何でも食べてしまうのです。可愛いうさみみちゃんが美味しくなさそうに見える筈は無いので、皆はとても急いで森を目指したのでした。



 森に入ると、春の事でしたので、きれいなお花が一杯咲いています。
「おじ様、お花って好きかなぁ」
花束にしたらさぞかしきれいだろうと思うような花ばかりだったので乱太郎は思わず呟きましたが、お母ちゃんの言葉を忘れていなかったので、お花を摘むのは止めました。
「そうね、おじ様、立派なお鼻をお持ちだものね」
その言葉を聞いて、木の影から笑い声が聞こえました。
「だぁれ?」
驚いた乱太郎が声を掛けると、木の影から誰かが出てきました。すらりと背の高い、とても格好の良い男の人です。
「可愛いうさみみちゃん。お花は摘んでいかないのかい?」
その言葉に、乱太郎は赤くなって言いました。
「だってお母ちゃんが道を外れちゃダメだって言ったんだもの」
「少しくらいなら良いんじゃないの?」
「だって森の中は狼が出るって言うし…」
「だったら、うさみみちゃんは道が見える所でお花を摘めば良い。狼は、私が見張っててあげる。それなら良いんじゃないか?」
そう言われて、乱太郎は少しの間迷いました。でも、
「こんなきれいなお花をうさみみちゃんから貰ったら、誰だって嬉しいと思うよ」
そう言われて、乱太郎はその言葉に甘えることにしました。
「じゃあ、ちょっとだけ。本当に見張っててくれる?」
「もちろんだよ」
その言葉に、乱太郎は道から外れて、お花の中に歩いて行きました。お花に囲まれた乱太郎はそれはそれは愛らしく、狼でなくても思わず食べてしまいたくなる程でした。
「お兄さんの名前は?」
「私は利吉。うさみみちゃんは本当に可愛いね」
「私、乱太郎って言う名前がちゃんとあるんですよ」
「でも、うさみみちゃんだろ」
利吉という人はそう言ってくすくす笑います。利吉に見られると、乱太郎は何故かドキドキしてしまいます。利吉は乱太郎と一緒に花を摘みながら、さり気なく聞きました。
「うさみみちゃんは何処に行くの?」
「森の中の山田のおじ様の所に、届け物に行くの」
「届け物?」
「うん。あれよ」
そう言って乱太郎が指差した場所には、大きな大きな風呂敷き包みがありました。その大きさに驚いて、思わず利吉が言いました。
「ふぅん。小さいのに偉いね」
「私、もう小さくないもん」
利吉の言葉に、乱太郎はつんと横を向いてしまいました。それが可愛くて可笑しくて、利吉はまたくすくすと笑います。乱太郎は赤くなって俯いてしまい、黙って花を摘んで居ました。と、利吉の手がすっと伸びて、耳許に触れました。びっくりして顔を上げると利吉が笑っています。
「やっぱり。きれいな赤い髪には白い花がよく映るね」
乱太郎がそっと手をやると、そこには一輪の花が差されていました。乱太郎は、ますます赤くなり、恥ずかしくて嬉しくてどうして良いか分からなくなってしまいました。
「もう、お花は一杯摘めたね。そろそろ道に戻った方が良い。道まで送るから」
不意に、そう言って利吉が立ち上がりました。それから、積んだお花を渡してくれました。二人で摘んだのでかなり立派な花束になりました。乱太郎は赤くなったまま、言われるままに立ち上がって、道に戻ると乱太郎はぺこりとお辞儀をしました。
「あの、どうもありがとう。お花もたくさん摘めたし、狼も来なかったし」
「ふふっ。良いんだよ」
そう言って利吉は、すばやく乱太郎の口唇に自分のそれを重ねました。あっと思った瞬間には利吉はもう離れていて。
「もう、小さくないんだろう?ボディーガード代、確かに貰ったよ」
何か言おうとしても言葉は出てこないし、それに、くすりと笑った顔は何故か憎めません。
「まっすぐ行くんだよ。今度は寄り道をしないでね」
その言葉に頷いたときには、もう利吉の姿は見えませんでした。乱太郎は何故か、胸がきゅうんと苦しくなるのを感じました。



 利吉は、実は狼と呼ばれているフリーの忍者でした。乱太郎の事は森に入った時から狙っていたのです。本当はお花の中で乱太郎を食べてしまっても良かったのですが、行き先を聞いて考えを変えたのです。
利吉はすばやく森を抜け、乱太郎の先回りをしてその家の扉を開けて、中に入りました。
「父上!」
「おお、利吉では無いか」
嬉しげに出迎えたのは、山田伝蔵と言う中年忍者です。中年とは言っても、引き締まった身体つきのナイスミドルです。乱太郎の言う所の山田のおじ様は、利吉の父だったのです。
「この碌でなしめ。改心して戻って来たのか」
利吉はフリーの忍者になってから、狼と呼ばれて恐れられる程に身を持ち崩したヤクザ者に成って居たので、勘当されていたのです。その時に、性根を入れ替えたなら戻って来いと言ってあったので、伝蔵はすっかり利吉が改心したものだと思ったのです。ですが久し振りに会った利吉は、父に当身を食らわせると、猿轡をかませて、決して抜けられないように縄をかけてぐるぐる巻きに縛り上げてしまいました。普段なら対等に戦えるのですが、久し振りに息子の顔を観た為に油断していたのです。
「暫く静かにしててください。用が済んだら直ぐに放して差し上げますから」
猿轡の下で抗議をしますが、利吉は耳を貸さずに物置の奥の、秘密の穴倉に父を放り込むと、確りと鍵を掛け、更に戸が開かないように荷物で重石をしてしまいました。それから、なんでも無かった様に、服の埃を払い、暖炉の側の椅子に座りました。
と、その時扉が叩かれ、乱太郎の声がしました。
「こんにちわぁ。乱太郎です」
「開いてるよ」
その答えに、乱太郎は扉を開けて中に入りました。が、そこに居たのは山田のおじ様では無くて利吉でした。
「え、どうして利吉さんが此処に…?」
不思議そうな乱太郎の言葉に、利吉はにっこりと笑いました。どんなに相手もころりと落ちる、営業用のスマイルです。もっとも、可愛い乱太郎を見ていると自然に笑顔になってしまうのですが。
「父は出掛けていてね。じきに戻って来るよ」
「利吉さん、おじ様の息子さんだったんですか」
「そうだよ。せっかくだから、お土産を頂きながら待っていようか」
そう言って、利吉は乱太郎が持って来た荷物の中からお菓子やおこわを出して勧めました。けれど、お酒は養命酒だったのでさり気なくしまい、代わりにジュースのようなカクテルを勧めました。
「咽喉、渇いただろう?遠慮しなくて良いんだよ」
利吉に優しく微笑まれて、乱太郎はすっかり安心してしまいました。それに、歩いて来たのでお腹も空いていたし咽喉も渇いていたのです。すきっ腹に飲むお酒は良く回ります。それはもう、気持ちが良いほどです。
ぽぅっと頬を赤く染め、とろんと潤んだ睛で見詰められ、利吉は少し、ドキドキしてしまいました。
「利吉さん…、私、なんだか…」
乱太郎が困った様に言う声は甘えていて、少し呂律が怪しくなっています。
「暑いの?」
「うん。それにふわふわして目が回るの…」
利吉はますます優しく眸を細めて言いました。
「じゃあ、少し休んだほうが良いね。奥の寝室で少し横になっておいで」
そう言って足元の覚束ない乱太郎を抱き上げて、寝室へと向かいました。
冷たいシーツの上に横たえられ、可愛いうさみみのずきんもとられ、服の前がくつろげられて、やっと乱太郎は何かがおかしいと気付きました。
「あの、利吉さん…?」
「可愛いうさみみちゃん。狼がどんな風だか聞いていなかったの?道を外れちゃいけないって聞いていなかった?」
「じゃあ、利吉さんが…」
「そう。私が狼だよ。そして、うさぎは狼に食べられてしまうんだ。知っているだろう?」
そうして、可愛いうさみみちゃんは、狼に大変美味しく食べられてしまいました。



 その頃、うさみみちゃんを助けるべく、にわか猟師になった村の人達はというと。
「だから、入森票にサインしてくださいってば」
「ええいっ、それ所では無いと言ってるだろう!」
「そうだよっ。うさみみちゃんが中に居るんだぞッ!狼が狙わない訳無いだろう!」
「早くしないとうさみみちゃんが危ないんだよ!」
「だから、入森票にサインしてくれれば良いんですってば」
「そんな暇が有るかっ!早く入れろっ!」
「だーかーらーっ」
森林管理人の小松田君に強固な足止めを食って居りました。



 それからどうなったかと言うと。
利吉は乱太郎があんまりに可愛いのでとうとうお嫁さんにしてしまいました。そして、乱太郎が悲しい顔をするので改心をして、凄腕のフリーの忍者になりました。やっぱり、狼と呼ばれる事には代わりが無かったのですがね。
あ、ぐるぐる巻きにされた父は、あの後直ぐに出して貰いましたから、大丈夫ですよ。
めでたしめでたし。



お終い。



                                   TEXT:利太郎様   
【利】
□件名:うさみみたっきう便
 うさみみずきんちゃん、手を入れたものをお送り致します。
 たらしな利吉さんを書くのがすごく楽しくて、
 止まらなくなっちゃって(汗)
(犬:↑だそうです(笑))


【犬】
利太様から恒例うさみみ宅急便♪
今度はうさみみずきんちゃんです。
…しまっちゃう利吉さん…。(ぼのぼの)
掲示板に一度書き込んでくださったのをきちんとして送り直してくださいましたv
bbs・vrでは猟師さん不在でリッキー完璧野放しでしたが、
猟師さん登場しても、リッキー野放しは変わらない様子です。
しかし、いくらみんなに愛されてる小松田君でも、この結果は
さすがに、あとでみんなにたこなぐりじゃないでしょうか。
猟師さん達のメンツを考えるのもとても楽しいですよね♪

利太様のおかげで掲示板がとても楽しくて素直に嬉しがってます。
(→嬉しがらせてもらうばかりじゃだめなのよ?自分。)

利太様。いつも可愛いちゃんをどうもありがとうーv



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